フランス革命政府はMMTを実践していた!(佐藤健志・令和の真相29)
◆保守主義の古典、文庫化 1790年、『フランス革命の省察』という本がイギリスで刊行されました。 この記事の写真はこちら 著者は政治家であり、文人でもあったエドマンド・バーク。 前年に始まったフランス革命を、さまざまな角度から痛烈に批判したものですが、保守主義の古典として名を残します。 実際、バークが展開した議論には、刊行より230年を経た現在でも学ぶべき点が多々あるのです。 この点に注目した私は、発表当時のインパクトを再現すべく原著を再構成した本を2011年に発表しました。 題して『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』。 おかげさまで順調に版を重ね、このたびPHP研究所より文庫化される運びとなりました。 今回の文庫化にあたっては、まえがき「フランス革命は終わっていない」を追加のうえ、内容がいっそう豊かになるよう訳注を充実させました。 しかるに革命政府の経済政策について解説しているうち、面白い事実が浮かび上がってきます。 なんとフランス革命政府は、最近話題になっているMMT(現代貨幣理論)に基づいた政策を、そうと自覚しないまま実践していたのです! フランス革命とMMTの関連について取り上げた本は、わが国はむろん、世界的にも今回の文庫版が初めてでしょう。 古典に新たな輝きがつけ加わったというところですが…… ならば、具体的にどの政策がMMTに基づいていたのか? そうと自覚しないまま実践されるなどということがなぜ起きたのか? これをご理解いただくには、MMTにおける貨幣観について、おさらいしなければなりません。
◆貨幣は「数値化された信用」だ 貨幣(マネー)とは何か? ずばり言ってしまえば「数値化された信用」です。 信用(クレジット)とは、「何らかの財やサービスを提供した見返りを受け取る権利」と定義される。 平たく言えば、「貸し」をつくった状態。 「貸し」があるところ、反対側には必ず「借り」がある。 何らかの財やサービスを提供してもらった見返りを提供する義務です。 こちらは負債と呼ばれます。 仕事をして、1万円の支払いを受けるということは、仕事をした相手にたいする「貸し」を、1万(円)という「数値化された信用」によって清算してもらったことを意味する。 相手にしてみれば、仕事をしてもらったことにたいする「借り」を、1万(円)という数値化された信用によって清算したわけです。 貨幣を受け取った側は、今度は自分が1万までの「借り」をつくっても大丈夫。 くだんの貨幣を相手に渡して、清算すればいいのです。 そして貨幣を渡された相手は、今度は自分が1万までの・・・ 以下繰り返し。 つまり貨幣は、「一定量の借り」の存在を示すもの。 どれくらいの量の借りがあるかは、貨幣の数値によって表されます。 貨幣の本質は、信用という特別な意味を持った数字にほかなりません。 数字なのですから、貨幣による決済が、紙幣や硬貨といった現金通貨(キャッシュ)のやり取りを伴う必要はない。 現金のやり取りがなくとも、当事者の信用を表すと認定された数字(=銀行口座の残高)が変動すれば良いのです。 これがご存じ、キャッシュレス決済。 「キャッシュレス」であって、「マネーレス」でないことに注意して下さい。 現金と貨幣は違うのです。 現金の移動を伴わないまま、貨幣による決済を可能にするプラスチックのカードを、われわれは何と呼ぶか? クレジット・カードです。 他方、ATMから現金を引き出すために使われるカードの名称はキャッシュ・カード。 キャッシュ(現金)とは、数値化されたクレジット(信用)であるマネー(貨幣)が、たまたま物理的な形を取ったものと定義できるでしょう。 このあたりについて、さらに詳しく知りたい方は、中野剛志さんの著書『目からウロコが落ちる奇跡の経済教室 基礎知識編』(KKベストセラーズ)や、私の『平和主義は貧困への道 または対米従属の爽快な末路』(同)をご覧下さい。