パレスチナ自治区ガザで繰り広げる非道な民間人殺りくを、さらに広げるつもりなのか。 　イスラエルが隣国のレバノン内への攻撃を激化させ、中東の戦火拡大に懸念が高まっている。 　イスラエル軍は、敵対する親イラン民兵組織ヒズボラが影響力を持つレバノン南部などで大規模空爆を開始した。既に500人以上が死亡、2千人近くが負傷したという。 　多くの子どもや女性らを含む民間人が犠牲となっている。無差別で、不均衡な武力行使を禁じた国際人道法違反の疑いがあり、断じて容認できない。 　米国や日本、欧州連合（EU）などは共同で、双方に21日間の即時交戦停止を呼びかけた。国際社会を挙げて、沈静化へとつなげねばならない。 　イスラエルとヒズボラの対立は40年余り続く。昨年からはガザのイスラム組織ハマスと共闘し、イスラエル北部の国境付近を攻撃してきた。 　対してレバノン各地では9月中旬、ヒズボラメンバーのポケットベルやトランシーバーが一斉に爆発し、巻き添えとなった市民を含め多数が死傷した。イスラエル側は言及を避けているものの、遠隔操作による爆破が疑われる。 　ヒズボラの指導者ナスララ師は報復を宣言し、ロケット弾を発射した。これにイスラエル側が越境空爆を強化。レバノン側の犠牲者は、2006年の大規模戦闘を上回る過去最多となった。 　イスラエルのネタニヤフ首相は強硬姿勢を崩しておらず、軍は戦線拡大の動きをみせる。ガザに続く地上侵攻も危惧される。 　イスラエルではガザでの戦闘が長期化する一方、残る人質解放の見通しが立たず、ネタニヤフ政権への不満が高まっている。抗議デモも頻発する中、レバノン攻撃で国民の目をそらし、求心力を回復させる狙いが透ける。あまりにも身勝手ではないか。 　ヒズボラはレバノンの南部を実効支配し、国軍を上回る軍事力があるとされる。今後、ヒズボラを支援するイランが関与を強めることがあれば、さらなる犠牲と中東の混迷が深まるだろう。 　ガザ侵攻からまもなく1年を迎える。後ろ盾の米国はイスラエル擁護と支援を続けている。ニューヨークで開かれている国連総会の一般討論では、イスラエルへの非難と同時に、「二重基準」の対応をしてきた米国にも不信の声が上がった。戦闘停止への踏み込んだ対応を求めたい。