「石破のせがれ預かってくれんかね。頼むよ」電話口で響いた田中角栄のダミ声…“緊縮派”の宰相・石破茂誕生の瞬間
(渡辺 喜美:元金融担当相、元みんなの党代表) ■ 石破政権の誕生は“ブラック・ジョーク” 【写真】福田内閣でともに閣内に入った渡辺喜美氏と石破茂氏。石破新総裁にショートメールを送ってみると… 石破茂自民党新総裁はいきなり「ショック」からスタートした。 岸田政権の高市早苗経済安保大臣の当選を見込んでいた9月27日のNY市場は日経平均先物が2500円近い爆下げ、30日の東京市場も1910円の下落。ドル円は142円台となった。 おりしも「貯蓄から投資へ」を推進するJapan Weekが開催され、Black RockやBlack Stoneなど大手ファンドが参加。石破政権の誕生はブラック・ジョークだったと揶揄する向きも出ている。 石破・高市両氏とも無派閥で党内基盤が薄く、岸田文雄前首相が派閥解消宣言したとあって従来型派閥合従連衡はやり難いと当初は言われた。しかし、結果はキングメーカーの座を賭けたバトルとなった。菅義偉元総理は最初から小泉進次郎元環境相と石破氏の2枚腰。麻生太郎元総理は最後に高市氏で大号令。一時は麻生氏がキングメーカーと思われた。 一方、岸田氏は決戦投票で「高市以外」の巻き返し伝令を出し、国会議員票16票差を実現した。岸田氏は自ら解消したはずの派閥を動かし、唯一残った麻生派の領袖が破れたのである。自民党の派閥文化は変異して生き残った。 岸田氏は副総裁となった菅氏と共に新しいキングメーカーとなる。石破氏は岸田路線の踏襲を宣言した。 では、岸田内閣の唱えた「成長と分配」は3年間でどうなったか。名目GDPは607.9兆円で7.4%の増。一見良さげに思える。でも、別表(吉崎達彦「溜池通信」vol.795より)を見ると衝撃的事実が浮かび上がる。それは国民生活が確実に悪化している「真実」だ。
■ 石破氏に送ったショートメール 雇用者報酬は18兆円超のプラスだが、可処分所得は2兆円超のマイナス。物価高で家計最終消費支出は約34兆円増え、経常税(支払い)・純社会負担(支払い)は約12兆円の増。おまけに貯蓄は36兆円超も減っているのだ。 つまり分配面を見ると家計部門は「増収減益」になっている、と吉崎氏は指摘する。生活が苦しくなっている時に裏金事件が起きた。国民の金銭感覚がシビアなっている時、無税かつルール違反のカネを受け取っている特権階級がいることを知ってしまった。 岸田内閣の支持率は低空飛行を続け、自ら選んだ日銀総裁が円安抑止利上げに走り、株価の大暴落を招いた。岸田総理の最大の後ろ盾であったバイデン米大統領も選挙撤退を表明。「今が潮時」と総理は考えたのだろう。こうした事実を石破総理がどう捉えるのか。 石破氏は総裁選に勝利した直後の記者会見で経済オンチぶりを発揮してしまった。日本経済の現状を問われ、「デフレスパイラル」という言葉を3回繰り返したのである。これは継続的な物価下落が引き起こす恐慌のこと。企業収益が史上最高で、人手不足が深刻な日本で起きているのは恐慌ではない。 私は即座に石破氏の携帯にショートメールを送り、日本経済は「デフレスパイラルからの脱却」を目指すのではなく、慢性的な「デフレギャップ(需要不足)からの脱却」を目指すと言うべきことを伝えた。翌日から「デフレからの脱却」という言葉を使うようになった。読書好きの石破氏も経済書はあまり読まないのかも知れない。 石破氏の党・内閣人事は高市氏や小林鷹之元経済安保大臣が提示されたポストを拒否したことにより、適材適所もあるのに典型的論功行賞人事と批判を受けている。初入閣が多く、結果を出すには10月27日の投開票で自公政権が維持されれば、という条件付きになった。国会論戦を経た上で解散と言っていたはずなのに最短コースを選択したのは、印象として非常に悪い。 立憲民主党が野田佳彦代表となり、「穏健保守」で基本的に緊縮財政指向の似たもの同士なので、高市支持派からは「惑星直列」と揶揄されている。