親に「医学部受験」を強要された多浪生たち…知られざるその「過酷な実態」
2018年1月、医学部受験で9年間浪人した女性が、受験を強要し続けた母親を殺害するという悲惨な事件が発生。今年1月に控訴審で言い渡された「懲役10年」の判決が、翌2月に確定した。 【写真】超難関「東大医学部」でも落ちる…? 知られざる「医師国家試験」の凄い世界 また2018年7月には、当時の文部科学省局長が、同省の私大支援事業で東京医科大学に便宜を図る見返りに、1浪の息子を合格させてもらったという受託収賄容疑で逮捕された。この汚職事件の初公判は昨年7月に開かれ、現在係争中だ。今年3月22日には、息子が「加点がなくても合格したのに、裏口入学と言われ悔しい」と法廷で証言し、注目を集めた。 2018年に起きた2つの事件に共通するのは、難関の医学部入試を突破してほしいという親の強い思いだ。 医学部入試の合格者、医学部から進路変更を余儀なくされた多浪生、医学部受験に詳しい予備校関係者らへの取材をもとに、医学部受験に挑む親子の苦悩や多浪という現象の問題点について紹介する。
親からの強すぎるプレッシャー
「母親が医学部に進学するよう要求し、9年間も娘に浪人させるなんて、医学部志向が強すぎる親の典型例ですね。子どもがかわいそうです」 精神科医で、緑鐵受験指導ゼミナールの代表を務める和田秀樹さんは、9年間も医学部を受験するよう強要し、教育虐待を行った母親についてこう話す。 この事件では、娘は9年間の浪人の末、国立大学の看護学部に進学。大学4年生のとき、大学の附属病院から就職の内定が出ていたが、母親は、辞退して助産師学校の試験を受けるよう要求してきた。その試験を受けたが不合格だったことを夜通し叱責されたことから、娘は凶行に及んだ。 この事件は極端な例ではあるが、親が子どもの志望を無視して、自分の希望を執拗に押し付ける「教育虐待」は少なくない。その際に、親が希望する進学先として多いのが、「医学部」だ。 高収入で、社会的ステータスも高く、人に感謝される職業である医師になってほしいと願う親は多いが、なかにはブランド志向、自己満足でわが子に医学部を勧める親もいる。 もちろん、親に言われて医学部に進学し、後から振り返って「良かった」と語る人もいる。東大理一と慶應医学部に合格し、医師になった男性は、本当は東大に進学したかったものの、親と担任の教師の強い勧めに従って後者に進んだという。取材した当時は医学生で、「臨床実習を経験して、医師はやりがいがある仕事だと感じた。医学部に進学して本当に良かった」と笑顔を見せた。 そうではないケースもある。医学部専門予備校・メディカの亀井孝祥代表が、2浪で私大医学部に入学したある生徒について述懐する。 「両親ともに医師で、2人の強い希望で私大医学部に進学しました。しかし、本人は医学にはまったく興味がなかったため、同じ学年を2回留年して退学になりました。その後、他大学の文系学部を受験して、大学に入り直し、『ようやく行きたい学部に行けた』と喜んでいました」 親の強い希望で、医学部受験の勉強、医学部での勉強に4年間も費やしてしまったのは少し不幸にも思えるが、ようやく学びたかった学問にたどりつけたのは、当人にとっても良いことだったといえよう。 わが子に「医学部に進学してほしい」という希望を持つ医師や歯科医師は多い。特に、子どもに病院を継いでほしいと考える開業医に、その傾向が強いと感じる。江戸時代から代々続く医師の家系で、自分が7代目だという開業医の男性は、かつて 「代々医師の家系だったため、父の姿を見て自然に医師を目指しました。わが子のプレッシャーにならないよう何も言いませんが、心の中では、『子どもたちの誰かに病院を継いでほしい』と思っています」 と、本心を打ち明けてくれた。 この医師の子どもは2浪で医学部に合格したが、そのような親からの期待やプレッシ ャーを背負いながら、何度も何度も医学部受験に挑戦している多郎生もいる。 メディカの亀井代表によれば、親と本人の強い希望で医学部受験に10度挑戦した歯科医の息子もいたという。大手予備校で7浪した後、医学部専門予備校であるメディカに移り、9浪目で合格を果たしたそうだ。