『カムカム』ジョーとトミーが一騎打ち シンクロするモモケンと竹村夫妻のセッション
『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)第54話は音楽回。「関西ジャズトランペッターニューセッション」の当日、ステージ衣装にケチャップをこぼしてしまった錠一郎(オダギリジョー)に、るい(深津絵里)は、自分が洗濯して届けるので会場に戻って準備するように伝える。手洗いでしみを落とし、乾燥させてアイロンをかけるるい。そうしている間にもコンテストは開幕し、錠一郎の出番も刻一刻と迫る。 【写真】幼少期の大月錠一郎 どうにか衣装も本番に間に合って、るいが見守る中、錠一郎が奏で始めたのは「On the Sunny Side of the Street」。錠一郎とるいの特別な1曲だ。岡山で出会った“サニーサイド”が、戦災孤児だった錠一郎の人生を決定づけた。「僕には見えてた。これから自分が歩いて行く道は、明るい光に照らされてる」。錠一郎の抱いた予感は現実のものとなり、“サニーサイド”に導かれるように錠一郎とるいは出会い、この日の舞台となった。 決勝はトミー北沢(早乙女太一)とのセッションによる一騎打ちに。華麗なテクニックでぐいぐい前に出るトミーに、柔らかなトーンとフレーズで答える錠一郎。親友でライバルの2人が紡ぐトランペットの会話に、東京の芸能事務所「笹川プロダクション」の令嬢・奈々(佐々木希)も魅了されたに違いない。 ちょうどその頃、平助(村田雄浩)と和子(濱田マリ)は映画館にいた。お目当ての若大将シリーズは満席で入れず、仕方なく黍之丞シリーズの最新作『棗黍之丞 妖術七変化』を観賞する。前日のラジオ番組で、パーソナリティの磯村吟(浜村淳)が「日本映画史上、まれに見る駄作」と話すのを聞いていた竹村夫妻。まったく期待していなかったが、観はじめるとその予想は見事に裏切られた。
桃山剣之介(尾上菊之助)と伴虚無蔵(松重豊)による対決シーン
トミーと錠一郎の3分30秒にわたる長尺のセッションにかぶせられたのが、“モモケン”桃山剣之介(尾上菊之助)と伴虚無蔵(松重豊)によるクライマックスの対決シーン。白刃が舞う実力伯仲の2人の斬り合いに、平助と和子は息をするのも忘れて見入ってしまう。それもそのはず、酷評された『妖術七変化』で、磯村が唯一「日本映画史上、類を見ない圧巻の立ち回り」と絶賛したのがこのシーンだったからだ。 前日にるいと錠一郎も同じ映画を観ており、るいはいまいちな反応だったが、観終わった錠一郎はるいのためにコンテストに勝つことを誓った。おそらく殺陣のシーンを観て、感じるところがあったのだろう。好敵手を得て潜在能力が引き出されるのは剣術に限った話ではない。一瞬の間合いも逃さない真剣勝負は、錠一郎とトミーのアドリブ合戦にも通じる。 映像と音楽のコラボレーションは、これだけでも十分なくらい堪能できたが、さらにダメ押しのように客席の竹村夫妻の映像も挿入される。わずかな表情の変化で内心の驚きや焦り、スリルを表現する平助役の村田と、顔面筋と眼筋をフル稼働させて必死に感情の表出を抑えようとする(が抑えられない)和子役の濱田は、好対照でありながら息の合ったもう一つのセッションになっていた。なぜ夫妻は錠一郎の応援に行かないのだろうと一瞬いぶかしく思ったが、これを見せたかったのかと納得した。
石河コウヘイ