錦織圭 全米への不安要素は?
補足すれば、年間スケジュールの中でも、カナダとシンシナチでマスターズが2週続いて1週空いて全米オープンを迎えるというスケジュールは、マドリードからローマ、そして全仏オープンという時期と並んでもっとも厳しいものだ。さまざまな条件をクリアしているためにこのマスターズへの出場義務が免除されているロジャー・フェデラーが、モントリオールを欠場してシンシナチに絞っていることからもうかがえる。特に連戦が響きやすい錦織は、本来、マドリードとローマも、カナダとシンシナチも、いずれか一つを選びたいところなのだろう。 では、ケガがそもそも大したものでなかったのだとしたら、あの0-6という惨敗と、戦意喪失などと言われた態度は何だったのか。これも、誤解を恐れずに言えば、錦織には昔からひどく集中力が切れてしまうことがたまにあった。途中棄権の決断も驚くほどあっさりしていることがあったし、どうやっても今日は勝てないという状況で最後のポイントまでがむしゃらにボールを追うというようなタイプでは決してない。あの試合は「勝てない」とわかってしまったのだろう。原因もわかっていた。 「あの日はファーストサーブが入らなくて、セカンドを叩かれたのが敗因でした。ファーストサーブの確率を上げることやセカンドの強化がこれからの課題です」 そして最後に、観客の反応から受けた影響について。これもまったくない。普段から外野の声はあまり耳に入らない錦織だ。今日も、「どんな応援をしてもらいたいか」という質問があったのだが、「僕、ほんとにあまり聞こえないんですよね。チームとか知っている人の声は入ってくるんですけど」と答えていた。しかし、「強いていえば…」と挙げた例が可笑しい。 「日本で試合していて、(相手の)ファーストサーブが入らなかったときに『よしっ』っていうのをやめてほしい(笑)」 よしっ、チャンスだ、行け! そういう思いでお客さんはつい言ってしまうのだろうが、それが苦手というのはいかにも錦織らしい。 話が逸れてしまった。結局、「心配なし」という説明をしただけだが、「だから優勝の可能性は大」と言っているわけではない。体のことも「試合中に何か起こったら、わからないですけど」と言ったように、好調でも何か起こるときは起こる。モントリオールでも理想的な2試合のあとにあのマレー戦があったように、不調も突然訪れる。ただ、この1年だけ見ても、コンスタントに自分のプレーをやり抜く自信、準決勝・決勝と勝ち進むのが当たり前と思えるトップの自覚が育っていることは確かだ。 「よしっ!」と息を詰めずに、もう少し気楽に見るとしよう。 (文責・山口奈緒美/テニスライター)