村野藤吾と槇文彦、横浜を巡る展覧会『M meets M』でふたりの建築家の軌跡を知る。
ともに日本を代表する建築家である村野藤吾(1891~1984年)と槇文彦(1928年~)。ひと世代ほど離れたふたりは、横浜にて重要な建築設計に携わっている。村野が手がけたのは、1959年に横浜開港100周年を記念して建てられ、移転のため役割を終えた旧横浜市庁舎。槇は、2020年に新たなオープンした新庁舎のデザイン監修を担った。 【展覧会情報詳細】『M meets M 村野藤吾展 槇 文彦展』
その村野と槇の新旧の横浜市庁舎を中心に、数多くの建築を模型や図面、写真などで紹介するのが『M meets M 村野藤吾展 槇 文彦展』だ。会場はBankART KAIKOとBankART Temporaryの2つにわかれていて、それぞれ旧帝蚕倉庫と旧第一銀行をリノベーションした歴史的建造物とのコラボレーションを果たしている。 BankART KAIKOの『村野藤吾展』で注目したいのは、村野による手描きの旧横浜市庁舎の図面だ。1階から6階までの平面図をはじめ、議場天井図や市民広間展開図など約40点近くの原図がずらりと並んでいる。壁や床、天井のディテールまでも見事で、精緻で美しい階段手摺の原寸図からは、階段にも強いこだわりをもっていたことがわかる。「建築には人間の生命に対する慎重な配慮が必要である」とは村野の言葉だが、単に機能性を重視するのではなく、人間に寄り添おうとする思想が感じられる。
一方でBankART Temporaryの『槇文彦展』では、「ヒルサイドテラス」から「幕張メッセ」、それにニューヨークの「4ワールドトレードセンター」などの建築模型や写真が公開されている。改めて、国内だけでなく海外での活躍が多いことに気づかされる。そして新たな横浜市庁舎については500分の1スケールの模型だけでなく、市議会本会議場の床カーペットや議員席の布地といったサンプルも展示。建物の低層部は誰もが回遊できるオープンスペースになっていて、そこに都市と建築をつなげ、槇の唱える「空間への歓び」を与えようとする意図が読み取れる。 馬車道に移った新庁舎はBankART Temporaryに隣接し、旧市庁舎も両会場からほど近い関内に位置している。旧庁舎の敷地は今後、高層ビルとして再開発され、行政棟は宿泊施設として保存活用されることが決まった。約60年の時を超え、村野と槇が横浜でバトンをつなぐように築いた新旧の庁舎を見て歩きながら、『M meets M 村野藤吾展 槇 文彦展』を鑑賞するのも楽しい。
文:はろるど