「車の中で使用し、大事故を起こす理由」『脱法ドラッグの罠』著者・森鷹久氏に藤井誠二が聞く(第5回)
藤井:やっぱりやってる連中がどういう連中かも分かんないし、この場所から帰れんのかなみたいなこともね。 森:そうですね。気を失ったっていうわけではないとは思うんですけど、まさに私、お酒が大好きなんですけど、よく酔っ払ったまま記憶がなくなって、いつの間にか家で寝てたとか、本当ああいう感覚でした。ただそこに至るまではものすごい恐怖、恐怖感を感じてました。 藤井:ドラッグってやっぱり人間のコントロールを失わせるから、取材してる相手がジャンキーだったら、例えば取材に行って「なんだ」みたいな感じで襲われるとか、そういうのってあるんじゃないかと思うんですよね。 森:そうですね、実は一番この中でショッキングだった、本の中でショッキングだったのが、中高生みたいな子たちが路上で花火大会のときに、路上駐車場みたいなところに集まって危険ドラッグを回し吸いしてるというようなところだったんですけど、その描写は割とあんまり書いてはないんですけども、そのときもやはりそのうちの中の1人が「てめえ、なんだよ、じじい」みたいな、僕にちょっと言ってきたりとか。 藤井:ラリったやつらに「おやじ狩り」にあう可能性だってあるわけでしょう。 森:ええ。ただその中にも吸ってない子もいたので「待ってよ、待ってよ」っていう感じで言ってくれた子もいたりして。そういう危険性っていうのはずっと感じながら、今あらためて読んでみて、よく1人で取材をやってたなと思います。もう少し仲間か誰か連れていけば良かったかな、とちょっと思うんですけど。 藤井:例えばカメラマンと一緒に行くとか。僕も1人で取材に行くときは心細いですから、どんなときも。誰か相棒がいればなと。 森:そうですね。
藤井:ニュースで見てる人は、車の中で涎垂らして気を失って警官に押さえつけられてる吸った人を見てると思うんだけど、なんで車の中であれ開けちゃうんですか。森さんから見てなんでだと思いますか。 森:それはやはり結構、それ皆さん疑問に思ってらっしゃる方、非常に多いと思うんですね。 藤井:ふつうは誰の目もない自分の部屋でやるとか。 森:やっぱりもう我慢できないんだと思います。あとは、たぶん彼らは今までもドライブ前にハーブを吸ってて、危険ドラッグを使用して、いい気持ちになって、運転をした経験が絶対あると思うんです。今日も、池袋で逮捕された容疑者もそうなんですけど、すぐ池袋のお店で買って、車の中で一服しようかと、軽い気持ちで本当にやったと思う。そうしたらまさに十数分後ぐらいに気付いたらクルマで突っ込んでて、警察に囲まれてっていうことになってたんだと思います。 藤井:待ちきれないっていうことだし、車っていう空間もあるんでしょうけれど、でもそれまでたぶん絶対初めてじゃないわけですね。常習の人なんですね。 森:おそらく、絶対そうだと思いますね。 藤井:でもそれまではそんなことがなくて普通に運転できたのに、気持ちいいと思ったのに、突然変わったっていうのは、それはそのドラッグ自体が変わったってことなんですか。 森:というのもあると思いますし、やはり吸うまで分からないものなので、例えばパッケージが同じ商品名でAというものが2つあっても、片方からは禁止薬物が出ても、こっち側から、もう片方からは出なかったとか、そういったことはもうざらにある。当然製造環境なんてずさんの一言なので。 藤井:なるほど。ずさん、ですよね。さっきの製造風景の話をお聞きしていると。 森:なんで、混ざり方に例えば濃淡が出たりとか、まったく効かないものもあれば、程よく効くものもあって、一方で気絶するようなものができてしまう恐れだって当然あるわけです。 藤井:それを吸っちゃったっていう可能性があるということですね。 森:まあ、「外れ」だったんでしょうか。 藤井:ますます「危険」ですね。分かりました。ありがとうございました。 (終わり) -------------- 森鷹久(もり たかひさ) 1984年生まれ、佐賀県唐津市出身。高校中退後、番組制作会社を経て出版社でヤングカルチャー誌やファッション誌を編集。その後、フリーランスの編集者・ライターになる。精力的にドラッグ問題を取材。 藤井誠二(ふじい せいじ) 1965年愛知県名古屋市生まれ。ノンフィクションライター。高校時代よりさまざまな社会運動にかかわりながら、週刊誌記者等をつとめながら一貫してフリーランスの取材者。『17歳の殺人者』(朝日文庫)、『暴力の学校 倒錯の街』(朝日文庫)、『人を殺してみたかった』(双葉文庫)、『コリアンサッカーブルース』(アートン)、『文庫版・殺された側の論理』(講談社アルファ文庫)、森達也氏との対話『死刑のある国ニッポン』(金曜日)、『アフター・ザ・クライム』(講談社)、大谷昭宏氏と対話『権力にダマされないための事件ニュースの見方』(河出書房新社)、『三つ星人生ホルモン』(双葉社) 等、著書多数。