非核化へ見えてきた米朝の距離とスタンス 第2回会談物別れ
北朝鮮はまだ米国を完全に信頼できていない?
一方、北朝鮮側においても2つの点が見えました。 1つは、北朝鮮が制裁の解除を強く求めたのは当然ですが、金委員長が寧辺の核施設廃棄の見返りに「制裁の完全解除」を求めたのは言い過ぎであったと考え直したことです。会談終了後に、李容浩(リ・ヨンホ)外相に、北朝鮮は「制裁の一部解除」を求めたのだと異例の釈明をさせました。 2つ目は、一方で北朝鮮は「完全な非核化」にコミットしつつ、他方で「すべての核関連施設をさらけ出すことはできない」という矛盾した立場を取っているのですが、そのような矛盾にもかかわらず、米側の主張に応じないのは、「米朝間ではまだ信頼関係が構築されていない」という理由だからです。ようするに、「丸裸になると米国は攻撃してくる」という主張であり、一定の説得力があります。
核施設を取引に使い過ぎると米国の信頼失う?
今後、米朝両国は協議を継続する意思であり、非核化へ向けた交渉の枠組みは維持されますが、今後の展開によっては新たに緊張関係が生まれる可能性もあります。その協議において、米国は北朝鮮に「核兵器及び核関連施設の完全な申告」を求めつつ、一定の現実的な妥協が可能か模索していくでしょう。 一方、北朝鮮は「制裁の解除を、たとえ一部でも求めていく」でしょうが、今のままではそれは実現しないことを、今回の会談で思い知らされたでしょう。核関連施設を取引材料にしようとする姿勢を続けると、米国は北朝鮮のことを不誠実だと思い始める危険もあります。北朝鮮は「信頼関係の構築が先」とする交渉方針の練り直しを余儀なくされるのではないかと思います。 なお、韓国はこれまで「信頼関係の構築が先」という北朝鮮の立場を支持してきただけに、今回の米朝首脳会談の結果は期待外れだったと思います。今後韓国は、米国が重視する「完全な申告の優先」を北朝鮮に対しても説得できるかが問われます。それは韓国自身が米国との緊密な関係を維持するためにも必要でしょう。
------------------------------------ ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹