ビットコインが4か月ぶりの安値:マウントゴックスの弁済と米大統領選挙の不確実性が影響
マウントゴックスの弁済でビットコイン大量売却の可能性
米国でのビットコイン現物ETF取引開始、半減期による需給改善期待などを背景に、ビットコインの価格は年初に大幅に上昇した。しかしその後は頭打ちとなり、過去数週間は下落傾向が目立っている。足もとでは心理的な抵抗線である1ビットコイン6万ドルを割り込み、7月5日には5万4千ドルを下回り、4か月ぶりの安値を付けた。 ビットコイン価格下落の引き金となったのは、2014年に破綻した日本の仮想通貨交換所マウントゴックスが、債権者に一部弁済を実施したことだ。一部の仮想通貨取引所を通じて、債権者に対してビットコイン(BTC)およびビットコインキャッシュ(BCH)による弁済を行った。マウントゴックスが公開した書簡によると、「その他の再生債権者への弁済については、再生債権者が登録したアカウントの確認や、取引所による代理受領合意に関する承諾の調整が完了次第、速やかに実施する」としている。 約12万7,000人のマウントゴックス債権者に対して、総額94億ドル相当のビットコインが弁済されることが予想されている(コインテレグラフジャパン)。債権者は10年にわたって資金を回収できなかったが、この間にビットコインの価格が8,500%上昇したことを考えると、破綻した債権者の大多数は、弁済されたビットコインを即座に売却し、利益確定に動くことが予想される。そうした見通しが、ビットコインの価格下落をもたらしているのである。
トランプは「暗号資産大統領になる」と主張
また、大統領選挙でバイデン大統領が苦戦との見方も、ビットコインの価格下落の一因となっている。民主党のバイデン大統領が暗号資産の支援者、共和党のトランプ前大統領が暗号資産の規制強化論者、と整理できる訳ではない。しかし、政権交代となった場合には、暗号資産に対する新政権の政策スタンスが変わる可能性があるという不確実性が、ビットコイン市場で懸念されているのである。 トランプ前大統領は、こうした市場の懸念を打ち消すことを狙ってか、7月6日にサンフランシスコで開いた資金集めのイベントで、「自分は熱心な暗号資産(仮想通貨)推進派だ」、「暗号資産大統領になる」と主張した。さらに、民主党は暗号資産を規制しようとしていると批判したという。 米国株式市場は、足もとで比較的堅調だ。米国経済の成長鈍化が米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測を強めていることが、株式市場の追い風となっている。 暗号資産も金利低下期待の恩恵を受けやすいと考えられるが、上記の2つの懸念材料を受けて低迷している。今まで、一定程度の連動性を見せてきた株式市場と暗号資産市場との関係に変化が生じてきた兆しである可能性もある。今後のビットコイン市場の動向を注視したい。 (参考資料) 「ビットコイン5万5000ドル割れ マウントゴックス弁済で」、2024年7月6日、日本経済新聞電子版 「「仮想通貨大統領になる」、トランプ氏が資金集めで売り込み」、2024年6月10日、ロイター通信ニュース 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英