バブル横目に修行、震災後にコロナ…料理人が見たレストラン業界の40年「宅配キット」が教えてくれた本質
今の時代にあったフランス料理の届け方
宅配キットは、スタートからすぐに人気に火がつき、予想を超える注文数を記録しました。その一方で、突然の宅配キット販売にとまどう社員もいたといいます。 「長くお店をやっていると、そこそこの数の常連さんができるものです。そういった方々からの注文が入り、毎日バタバタでした。これまでやってきた店舗営業とは勝手が違うことで、社員たちもはじめは慣れない作業に苦戦していました。しかし、私たちはフランス料理でお客様を元気にすることが仕事です。料理の届け方が違うだけで、目的は変わりません。次々に入る注文をこなしていくうちに、とまどっていた社員たちも少しずつ慣れていきました」 コロナの混乱の中で形となった「宅配キット」ですが、新しい生活様式になった社会と非常にマッチしていることに驚いたと言います。 「本来は、自宅でフランス料理を食べたい高齢者のために考案しましたが、色々なシーンで楽しんでいただけることに気づきした。還暦のお祝いや自宅で手軽に本格的なフランス料理を食べたいという方はもちろん、結婚前のオンライン顔合わせの際に食べたいという方、イベントの景品として送りたいという方など、実に様々なケースがありました」 「宅配キット」の成功は、伊藤シェフにとって、料理の新たな魅力を発見する機会になりました。 「評判は軒並み好評で、『美味しいフランス料理をありがとう』という声や『子どもが楽しそうに盛り付けをしてくれた』という声をいただきました。長い自宅時間の中で、楽しいスパイスとなったようです。また、フランス料理ではスーパーにあまり並ばない、珍しい食材を使うこともあるので、食育の一環にもなったようです」 「少しずつ、コロナ以前の生活を取り戻しつつありますが、まだまだ油断できない状況が続いています。私個人のことで言うと、コロナのおかげで経営者としての仕事が増えて、引退時期が延びてしまいました(笑)。しかし、やりたいことは何でも挑戦してみようという勇気をもらいました。変化を嘆くのではなく、それに柔軟に対応して、自分にできることを探し、一生懸命それに取り組むことの大切さを学んだ気がします」