吉田類さんは愛猫ララが晩酌相手「僕は猫に育てられたようなもの」
【特別インタビュー】吉田類さん ベランダに飛んできて木の枝にとまる野鳥、その野鳥が果物をついばむ姿にじっと見入る猫、その猫のうしろ姿を眺めつつ酒杯を傾ける酒場詩人――。 「酒場放浪記」などで知られる吉田類氏は、いま東京都下・八王子のアトリエで過ごしている。下町の酒場で隣り合わせる馴染みの飲み仲間に代わって、独酌の相手をつとめるのは猫のララだ。ステイホームも、猫を眺めながらの“猫見酒”なら、時間が豊かに流れていく。 ◇ ◇ ◇ 「このコがララ。3歳になるノルウェージャンフォレストキャットの女のコ。僕は17年間一緒に過ごした猫に死なれてから、猫とは距離を置くようにしていたのだけど……。あるとき町を歩いていたら、ペットショップにいたララと偶然目が合ってしまった。体の具合が悪いことが、目を見てわかっちゃったんですよ。それで店の人とやりとりして、病院に連れて行ったら熱があって軽い肺炎だった。そんなわけで、引き取ることになったんです」 泰然自若たる現在の様子からは想像できないが、ララちゃんは体の弱った猫だった。類さんが気づいて助けなければ、どうなっていたかわからない。しかし、通りすがりに見ただけで、猫の健康状態がわかるものなのだろうか。 「僕は猫に育てられたようなものなんです。子ども時代を過ごした高知で、いつも一緒だったのが猫のチロ。チロは僕が山に遊びに行くと、心配して麓で帰りを待っていてくれました。時にはトカゲやネズミをくわえて運んできて、『食え』と差し出したこともありました。そんなふうに、常に僕を見守ってくれていたんですね。親子のように過ごしたから、僕は猫の気持ちも体の様子もわかるんですよ」
飲み屋帰りに拾った「特別な猫」
そんな類さんは、大人になってからも「特別な猫」に出会う。 故郷を離れ、渡欧してパリでの画家生活や旅三昧ののち、類さんは東京の下町に漂着する。昭和レトロがにおう門前仲町界隈の飲み屋をハシゴするようになっていたとき、その出会いはあった。 「ほろ酔うて、自転車を押しながらの帰り道。いつもの親水公園を通り抜けようとした折、車輪の前にもぞもぞと動く茶色い小動物がいる。そっと退かそうと摘み上げたのが運の尽き、いやいや運の始まり。子猫をポケットに入れて持ち帰った。翌朝の枕もと、ミュー、ミューとか細い鳴き声で目が覚めた。痩せこけた茶トラは、辛うじて足を踏ん張っている」(「私の『貧乏物語』」) 類さんはその茶トラの命を救った。ミルクとヨーグルトを与え、足についていたコールタールを取り、ノミを駆除した。湯船に入れて子猫をシャンプーすると、おでんの盛り皿に添える練り辛子の色に似ていた。それで、“からし”と名づけた。 「からしとは、どこへでも一緒に行きました。僕の肩に乗って散歩をしたし、旅にも連れて行った。山に登るときはザックの上に乗ったから、そのまま担ぎ上げました。リードなんてつけずに、歩かせることもせず、何も拘束しないで自由に一緒にいました」 類さんといえば酒場だが、飲みに行くのも一緒だったという。 「バッグの中にからしを入れるとおとなしくしているので、足もとに置いて飲んでいても平気でしたね。時々つまみをやっていたから、栄養過多になってしまい、それは反省しています」