「電力市場大混乱」の先にある知られざる日本の危機
(政策コンサルタント:原 英史) 2020年の年末以降、電力市場は異常事態に陥った。通常ならkWhあたり10円弱のスポット価格が最高値251円。1月下旬になってようやく落ち着いたものの、この間の平均価格は61円(12月20日-1月21日)。異常な水準の価格が続いた。 ■ 政府とマスコミの間違った説明 これほどの価格高騰がなぜ生じたのか? 政府やマスコミの説明では、主たる原因は「寒波」と「太陽光発電の出力低下」とされている。 ・「昨年末から続く寒波で電力需給が逼迫し、電力会社間で電気を取引する卸電力市場のスポット価格が急騰している」(1月13日朝日新聞) ・「天候不順が続く中では太陽光発電による発電量が少なく、電力不足には対応できない」(1月13日産経新聞) ・「厳しい寒さによりまして電力需要が例年に比べて大幅に増えていること、一方で天候の不順により太陽光等の再エネの発電量が低下をし、LNGの在庫も減少していることを受けて、全国的に電力需給が厳しい状況が続いております」(1月12日経済産業大臣会見) 当然のごとく流布している説明だが、実は間違いだ。実際には、今年の「寒波」は数年に一度程度のものでしかなく、需要増は普通に想定されていた範囲内。「太陽光」は前年に比べむしろ増加している。どちらも、異常な価格高騰の原因にはならない。
筆者も委員を務める内閣府再エネ規制総点検タスクフォースで、2月3日、電力需給問題に関する「緊急提言」を行い、この間違いを指摘した。会議には河野太郎大臣も参加し、ほかにも多くのデータを示し資源エネルギー庁などと議論している。資料と会議動画は以下で公開されているので、ぜひご覧いただけたらと思う。なお、念のためながら、本稿はタスクフォースとしての見解ではなく、筆者個人の見解だ。 (資料)https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20210203/agenda.html (動画)https://youtu.be/YaF0P9hgUP4? t=1540(「緊急提言」の説明は25:40頃から) 間違った説明が、真相を隠す意図でなされたとは思わない。とりわけ異常事態の初期は、不明なことも多かっただろう。だが、少なくとも現時点で分析すれば、明らかに事実と違う。間違った原因説明は、的確な問題解決と再発防止の妨げになる。政府は早急に訂正を行うべきだ。 ■ 根本原因は「市場設計の欠陥」 では、本当の原因は何だったのか? 詳細は不明な点が多く、「緊急提言」でも徹底究明を求めているが、現時点で明らかなこともある。まず、売り入札が12月末に突如急減し、その後は売り切れ状態が続いたことだ。需給曲線の交差は垂直線上で生じ、売り札の最高額よりはるかに高い価格での約定が数週間にわたり継続した。いわゆる価格スパイクではなく、「世界中の電力市場の歴史上、ほぼ初めて」(安田陽・京都大学特任教授)とされる「市場の機能停止」状態に陥ったわけだ。*1 *1 https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00007/00048/