「アトモス」の小島ディレクターがキャリア初のパリコレ視察、「ナイキ」の現状など
UKストリートシーンで「ナイキ」のテックフリースのセットアップが支持されていることが分かる、ロンドン出身の人気ラッパー セントラル・シーのライブ映像 ⎯⎯ おっしゃる通り、パリでは「ナイキ」を履いている若者が少なくなった感覚があります。 ただ、スニーカーの支持率は落ちているかもしれませんが、テックフリースのセットアップを着ている人の数は日本では考えられないほど多く、これはUKストリートのノリがパリにも来ているからだと思います。4人のキッズたちが全員セットアップを着て自転車に乗っている姿を見かけたんですが、どこかチームウェア感があって良かったですね。「ナイキ」といえば、ヨーロッパで「ノクタ(NOCTA)」(注:ドレイクとのコラボライン)の人気が高いのはご存知ですか? ⎯⎯ USのイメージが強かったので初耳です。 UKストリートノリの流れなのか理由は不明ですが、ヨーロッパでは「ノクタ」がどこも品薄ということで、取り扱っている「アトモス」千駄ヶ谷店では夏でも冬用のアイテムが売れるんですよ。現に、パリで「ノクタ」の取扱店を回っても見当たらず、リセールショップを覗けば高値で販売されていましたね。 ⎯⎯ 小島さんから見てパリのスニーカーシーンは総じていかがでしたか? 第一印象は「アシックス」の着用率の高さで、特に「ゲル エヌワイシー(GEL-NYC)」を頻繁に見かけましたね。若い人たちの足元は「アディダス」の「サンバ(Samba)」をはじめとしたローカットモデルが多く、「サロモン」は定着のフェーズに入っている感じがしました。世の中的にはスニーカーブームが終わり、革靴やブーツがトレンドだと耳にしますが、正直ほとんど見かけませんでしたね。僕の予想ですけど、パリって石畳だったり舗装されていない歩道が多いので、歩きやすさや履き心地が良いスニーカーに落ち着くのかなと。 ⎯⎯ それでも、若者の間で「アディダス」ローカットモデルの着用率が高い理由とは? 若者たちと会話していると、本当?って思いますが、タイパで脱ぎ履きのしやすさなども関係しているようで。また、いろいろな要因はあるかと思いますが、直近のヒットモデルのほとんどがローカットであることは間違い無いですね。 ⎯⎯ なるほど!東京のスニーカーシーンとの明確な違いは感じましたか? 本当は違いがあるべきだと思うんですが、見たことのないスニーカーを履いている人もおらず、“トレンドがないことがトレンド”なのかもしれないです。ショッピングの面でも、ブランドやメーカーが効率重視で大量生産していることもあって日本と同じ商品が並んでいて、出張中個人的に購入したのはセレクトショップ「ザ ブロークン アーム(The Broken Arm)」のオリジナルTシャツだけでした。だからこそ、グッときた「アディダス」や「オン」の“未来の商品”がマーケットにどう影響を与えるか興味深いし、自分のセンスとの答え合わせも楽しみです。 ⎯⎯ 「オン」というと、日本を含むアジアで絶好調ですがパリではあまり着用者を見かけなかった印象です。 多少見かける程度だったのは、ヨーロッパよりもアジアでヒットしているからでしょうね。結局、世界中でショッピングをしているのはアジア人なんですよ。日本では訪日外国人旅行者数が月300万人を超えましたが、おそらくアジア人はインバウンド消費が目的で、欧米人は観光がメイン。「アトモス」でもインバウンド消費のトップ10中8ヶ国がアジアですから。 ⎯⎯ 世界のスニーカーシーン全体の温度感はいかがでしょうか? 一昔前は、服は二の次でスニーカーが目立てば良いという考えの人が多かったので派手なモデルほど売れていましたが、近頃はファッションとリンクしたスニーカーが売れるようになっていますよね。コロナ禍以降は人々が熱狂から目を覚まし、気兼ねなく普段履きできるスニーカーを求めるようになった気がしています。定番に改めて立ち返る時期、とでも言うのでしょうか。そういった点で、「ニューバランス」のUSモデルのグレー系は、人種問わず履かれているので強いと思います。 最近、東南アジアにばかり行っていたのですが、逆にパリだけを見ていたら東南アジアのことは分からないだろうし、改めて僕のポジションではいろいろな国や地域を見て総合的に判断することが必要だと感じました。例えば、“音楽の日”にパリにいなかった方でも、記事やSNSで当日の様子を知った気になることはできます。でも、空気感や熱量は現地にいた人にしか絶対に分からないし、肌で感じた人との“体験の差”は絶対に埋まらない。僕は“音楽の日”の素晴らしさを味わったからこそ、日本でも同じようなイベントを開催したいという発想になりましたし、それを実行に移せるポジションの人が現地にいなければいけない。あとは、パリのアイコニックな「サクレ・クール寺院」が会場になっていたように、「浅草寺」の雷門から宝蔵門までの仲見世や原宿・竹下通りなど、東京は東京の良さを最大限に活かした場所でのファッションショーは面白いと思いました。円安なので、昔以上に外国の方は日本に来やすいでしょうしね。