「伝統的酒造り」ユネスコ無形文化遺産に登録…福岡県久留米市の酒蔵「価値が広まるきっかけになれば」
日本酒などの「伝統的酒造り」が国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。訪日外国人客の間でも日本酒が人気になる中、関係者は消費拡大への期待を高めている。 【写真】もろみが入ったタンクをかき混ぜる職人
熊本県では5日未明、日本酒や球磨焼酎を製造する蔵元の関係者約20人が熊本市の県酒造会館に集まり、パラグアイで開かれている政府間委員会の中継を見守りながら登録決定の瞬間を待った。
午前3時30分過ぎ、登録が決まると、県産酒で乾杯。県酒造組合連合会の本田雅晴会長は「ほっとした。日常生活と酒が密接に結びついている文化そのものが評価された気がする。今まで以上に誇りを持って製造に携わり、和酒のすばらしさをどんどん広めたい」と喜んだ。
日本酒造組合中央会は5日午前、東京都内で記者会見した。同会副会長で「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会」の小西新右衛門会長(72)は「世界に認めてもらってうれしい。和食のように世界に広がってほしい」と喜び、国際的に評価されたことが「日本の若い方にも『刺さる』きっかけになるのではないか」と期待した。
日本酒は、国内出荷量がピークだった1973年度の4分の1以下に減り、酒蔵の数も半分以下の1600程度になっている。日本酒造杜氏組合連合会所属の杜氏の数も2022年度は712人で、最盛期(1965年度の3683人)から5分の1以下に減少した。
一方、近年は海外での和食ブームなどから輸出が好調で、訪日外国人客の日本酒への関心も高い。観光庁による訪日外国人の消費動向調査(4~6月期)では、訪日前に期待していたこととして、「日本の酒を飲むこと」と回答した外国人客の割合は32・6%、土産品に酒類を購入したとした人も24・1%に上った。
福岡県久留米市の酒造会社「杜の蔵」の森永一弘社長(53)は、登録が海外への販売促進の追い風になることに期待する。
1898年(明治31年)創業。地元産の酒米を使い、米と米こうじ、水のみを原料とした純米酒造りにこだわる。20年ほど前から香港や台湾、シンガポールなどアジアを中心に輸出しているが、海外での日本酒の知名度はまだ低いと感じている。森永社長は「登録され、『これからも頑張れよ』と背中を押された思いです。日本の伝統的な酒造りの価値が国内外の多くの人に広まるきっかけになれば」と話す。
ユネスコ無形文化遺産、歌舞伎や和食など日本から23件
ユネスコ無形文化遺産は、芸能や儀式、技術などを保護するための制度だ。日本からは能楽や歌舞伎、和食、和紙などが登録されており、伝統的酒造りで23件目となった。政府は次の登録候補として「書道」を提案しており、2026年にも審議される見通しだ。