【ジャパンC】シンエンペラー失意の凱旋門賞から中6週、世界の矢作流秘策で心身とも“シン”化
<追い切りの番人> 海外強豪馬も参戦するジャパンC(G1、芝2400メートル、24日=東京)の最終追い切りが20日、東西トレセンほかで行われた。出走馬の調教内容を深掘りする「追い切りの番人」では、大阪の藤本真育(マイク)記者が、シンエンペラー(牡3、矢作)に注目した。約2年前から取り入れている矢作厩舎流の“縦列調教”で、心身ともに成長。凱旋門賞から中6週での帰国初戦でも激走の雰囲気が漂う。 ◇ ◇ ◇ 進化した“皇帝”が躍動した。午前6時25分。最終追い切りへ出発する前のシンエンペラーを見た矢作師は「歩様がすごくいい。言うことない」と絶賛した。美しい栗毛の馬体を大きく見せ、活気も十分だ。坂路では坂井騎手を背に4ハロン52秒8-12秒4で、古馬1勝クラスのビダーヤを4馬身追走して併入。担当の吉田助手が「(フランスから)帰ってきて、体の幅が増した」と言うように、走りがよりパワフルになった。 その裏には“秘策”縦列調教があった。矢作厩舎は、主に火&金曜に6、7頭がEコース(ダート)で、一列に並ぶ調教を実施している。オーギュストロダンを送り出す世界の名門A・オブライエン厩舎などが行う調整方法。矢作師もその効果を実感する。 「前に馬を置き、チップなどをかぶりながら我慢させるので、精神面での効果が見込める。また、疲れは出やすくなるけど、トモや、背腰に負荷がかかる。若馬の育成にいい」 2歳時から取り入れるシンエンペラーにも効果はある。同馬は元々、精神的な幼さが課題だった。1頭では進んでいかず、走ることに対して後ろ向きな面があった。ただ、縦列を経験していって、前の馬について走ることを覚え、後ろの馬からタイトに迫られることで、競走馬に必要な闘争心を引き出してきた。吉田助手も「幼さは残っているけど、競馬ではしっかりと力を出してくれる。縦列をしてきたのと、してきていないのとでは(精神面で)違うと思う」とうなずく。 エリザベス女王杯で12番人気ながら2着に食い込んだラヴェル、先週日曜の霜月Sで12番人気3着のサンライズジークは、縦列調教によって折り合い面に進展を見せ、人気薄でも激走した。「そう簡単に効果が出るものではないけれど、実際に成果は出ているからね」と矢作師は話す。 シンエンペラーも、縦列調教によって心身ともに進化がうかがえる。潜在能力も、国内外の強豪相手でも引けはとらない。凱旋門賞12着からの巻き返しがあるはずだ。【藤本真育】 ◆縦列調教とは 複数頭が縦一列に隊列を組んで行う調教のこと。一般的には、前の馬についていくことでまっすぐ走る習慣をつけたり、前進気勢旺盛な馬を我慢させたり、前の馬が蹴り上げた砂やチップなどが顔にかぶることに慣れさせる目的がある。前の馬との距離をあけずに走らせることで、走る意欲を促す意味もある。