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困窮者へのホテル提供打ち切りで吉住新宿区長、異例の謝罪

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週刊金曜日

「ご利用者の皆様に対して、寄り添った対応が出来ていなかったことを、率直にお詫び申し上げます」  6月9日、東京都新宿区の吉住健一区長は同区公式サイトで謝罪を表明した。緊急事態宣言に伴うネットカフェの一時閉鎖などで住まいを失い、ビジネスホテルの部屋を提供された98人に対し、6月1日に強制チェックアウトさせたことの誤りを認めたのである。  東京都は今年4月から開始した緊急一時宿泊事業によるビジネスホテルの部屋提供を6月7日まで延長する方針を5月中にはすでに表明しており、これに対応して都内のほとんどの市区が提供期間を同日まで(その後さらに30日まで)延長していた。にもかかわらず、新宿区のみが5月29日、「ホテル利用は5月31日まで(チェックアウトは6月1日)」と記した文書を利用者に配り、98人をホテルから強制チェックアウトさせたのである(正確には98人をチェックアウトさせ、うち11人には生活保護制度等によって部屋を再提供)。  これに対し6月8日、困窮者の支援を行なう「新型コロナ災害緊急アクション」(以下、「緊急アクション」)が抗議文を区に提出した。すると翌日には吉住区長が前記の謝罪とともに「6月30日までホテルの部屋を提供」「6月1日以降、14日までで宿泊できなかった期間の宿泊料相当(1泊3500円)を支給」することを発表した。  いったい新宿区はどんな意図でホテル提供を打ち切ったのか。どこに根源的な誤りがあったのか。 【破綻した区側の説明】  8日に抗議文を受け取った同区の関原陽子福祉部長は「説明が足りない部分があった」と陳謝し、「都の延長決定はあくまで『本当に困っている人には期間延長』という趣旨だと理解した」と、区の対応は都の延長通知と整合していると回答。続けて片岡丈人生活福祉課長も「これまで相談にこなかった人にはいちど6月1日でチェックアウトしてもらい、そのうえで困っている人は区に相談にきてもらう」意図だったと、動機の正当性を主張した。  しかしこの説明はすぐに綻びを見せる。「緊急アクション」側は事前に都の担当者と連絡を取り、経緯を把握していた。追及された片岡課長は都との協議で「全員提供継続が望ましい」と要望されていたことを認めた。要は他の22区や市が都の要望に沿って対応し、新宿区だけが都の要望とは相容れない対応を取ったのである。  さらに、利用者に「都の提供延長の方針」を伝えなかったこと、チェックアウト後に相談に訪れ提供延長を要望した利用者に対し区の窓口担当者が「新宿区のホテル提供は6月1日まで」と言い張った事実についても追及された。  実際には区は「困っていて相談にきた利用者」に対してもホテル提供を打ち切ったことになる。  吉住区長は「寄り添った対応」ができなかったと陳謝したが、この表現は曖昧にすぎる。そもそも「本当に困っている人を支援する」と「区に相談にきていない人にはチェックアウトしてもらう」の間には論理的な飛躍がある。区は「相談にこない人=『本当に困っている人』ではない」と見なして強制チェックアウトの対象にしたが、本来なら「区に相談にこない人」は「困っているか否かわからない」グレーゾーンの存在のはずだ(ゆえに新宿区以外の市区は提供継続対象とした)。「本当に困っている人」でも生活保護への心理的な抵抗、コロナ感染リスクのある無料低額宿泊所に収容されることへの不安など相談をためらう正当な動機はいくらでも考えられるのだ。 「緊急アクション」の稲葉剛さんによると、支援を求めている人が行政の窓口へ相談に行っても、恣意的に選別をされるという事例はコロナ危機以前から各地で存在してきた。他の自治体でも「グレーゾーンは支援対象としない」との名目による乱暴な制度運用の事例が指摘されている。制度運用における原則や優先順位が大きく歪んでいる状況下、不適切な行政の制度運用に対する「異議申し立て」が重要であることを、今回の事例は示している。 (植松青児・編集部、2020年6月19日号)

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