今期の「心を無にして観たドラマ」3選 なんでこんなに性急? このキャスティングで正解? などと“モヤモヤ”が止まらない
初回で違和感を覚えると途端に興味を失うのは、私だけでないはず。なんでこんなに雑で性急なの? このキャスティングで正解なの? などとモヤモヤし始めたら止まらない。それでも録りためて、心を無にして観始めると合点がいったり、納得することもある。 【写真をみる】今期「心を無にして観たドラマ」3作品は?
「わたしの宝物」(フジ)がまさにこれ。主題が「托卵」、松本若菜と田中圭が夫婦と聞いて楽しみにしていた。が、夫婦不仲というか、過剰なモラハラ夫に異常な献身妻というテイで始まった。幼なじみ(深澤辰哉)と一発こっきりの不倫で妊娠、し かも彼は海外でテロに巻き込まれて死亡。一生隠すつもりで出産したところ、モラハラ夫がなぜか急激に育メンへと変身。死んだはずの不倫相手も生きていて、アプローチしてくる。罪悪感に苛まれているところで、目ざとい後輩(恒松祐里)に暴露され……という運びに。 「過剰」「異常」「急激」はあくまで私の主観だが、あまりに性急で疑問符が浮かんだ。心情描写をすっ飛ばすのがイマドキの手法なのか。ただ、不倫の背景にも相手にも説得力がなく、起爆装置が弱いからこそ、ベタ&超特急で描いたのかもしれず。罪悪感倍増で窮地に立たされるのは若菜が適役だし、子煩悩覚醒直後に自分の子ではないと知って絶望するのは田中圭、無双だし。托卵発覚後の修羅場と心情描写が主菜と思って、最後まで見守ることにした。
もう一つ。たとえ前作が好評でも、主要キャストの改悪で客が離れるケースもある。「民王R」(テレ朝)がその憂き目に遭っている。前作「民王」をけん引した主役の菅田将暉はナレーションで、スピンオフができたほどの人気キャラ・秘書の貝原茂平(もへい)を演じた高橋一生は謎の「一人コント劇場」扱い。天丼を頼んだつもりがエビもイカもなし、白飯に天かすだけのタヌキ丼が出てきたような感じだ。 が、丼の土台である白飯が孤軍奮闘しているのはたたえたい。矜持を見せたのは主演・遠藤憲一。総理大臣の父とおとなしい息子の心が入れ替わる前作と異なり、毎回いろいろな人間と入れ替わるという新奇性を一人で担う。年齢も立場も異なるさまざまな人と入れ替わることで、民の声を傾聴し、真の民意をすくい上げ、政治家としての深みを増していくっつう展開だ。今の石破茂総理が5歳児と入れ替わったら強烈に面白いなと妄想しながら、エンケンの奮闘を眺めている。 最後にもう一作だけ触れておこう。「潜入兄妹」(日テレ)を。殺された父の敵を討つために、特殊詐欺で暗躍する犯罪組織に潜入する兄妹の話。元警察官で豪胆かつ機転が利く兄を竜星涼が、学生で天才ハッカーの妹を八木莉可子が演じる。覆面の犯人役を一人ずつ明かしていく、日テレの「〇〇占拠」シリーズの系譜ね。登場人物の大半が犯罪者、説得力が横溢する人と欠如した人がいるけれど、青みと黄みの強い映像にはチャイナノワール風味(造語)があり、タイトルの書体もかっこいい。昭和ドラマの懐かしい残り香もする……って、字だけかい。いや、兄妹の熱演も愛でているよ。
吉田 潮(よしだ・うしお) テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。 「週刊新潮」2024年12月12日号 掲載
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