尹政権の米日への片思い同盟で韓国は安全になったか
[ハンギョレS] ソ・ジェジョン一つの半島、一つの世界 2024年米大統領選挙と朝鮮半島 米国で「朝鮮半島非核化」が姿を消した隙間を 尹大統領の 「北朝鮮政権の終末」の脅し文句で埋める 同盟追い求めるうちに米国の「インド太平洋戦略」に編入され 対話と外交は姿を消し、残ったのは軍事演習のみ
今年11月に行われる米国大統領選挙の対戦表が決まった。民主党のカマラ・ハリス候補と共和党のドナルド・トランプ候補が2025年に任期が始まる第47代大統領をめぐり激突することになった。ところが、民主党と共和党の公約から「朝鮮半島非核化」は姿を消した。その隙間を尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は「北朝鮮政権の終末」で埋めると公言する。そして、韓国軍と在韓米軍は合同軍事演習を行っている。これでも大韓民国は安全なのか。 今月19日に確定した米民主党の新しい政策綱領は「北朝鮮の違法なミサイル能力構築を含む北朝鮮の挑発に対抗し、同盟国、特に韓国を守ってきた。また、今後も守り続ける」と謳っている。また「韓国・日本との3カ国連携を強化することで朝鮮半島およびその向こうの平和と安定を維持している」と述べた。韓米および米日の2国間同盟と韓米日3カ国の安保協力の強化を通じて、北の核の脅威を抑止することを予告したわけだ。そして、3カ国安保協力は朝鮮半島に限ったことではないという点も明確にしている。 4年前とはがらりと変わっている。当時、民主党の政策綱領は「同盟国とともに、また北朝鮮との外交を通じて、北朝鮮の核計画と地域的好戦性が提起する脅威を制限・抑止する。持続的かつ調整の取れた外交キャンペーンを構築し、非核化という長期的目標を進展させること」を目指していた。その際に「長期課題」に含まれた非核化目標は今や削除され、北朝鮮との外交も消えた。残ったのは、韓米日3カ国安保協力と軍事力で北を抑止するという約束だけだ。 ■米国の核武力と韓国の軍事力を一体に 実際、ジョー・バイデン政権は条件なしで北と対話するとは言ったものの、舌先三寸にすぎなかった。言葉とは裏腹に、行動は「拡大抑止」の強化を目掛けたものだった。「北朝鮮政権の終末」を公言する抑止政策を採択し、尹錫悦政権との協力の中でこれを「一体型拡大抑止」に発展させた。朝鮮がもしも核兵器を使用したら、米国は戦略核兵器で政権の終末をもたらすというのが以前の「拡大抑止」だったとすれば、これからはこの目的を達成するのに韓国の軍事力も動員するということだ。 これは、尹政権の国家安保室が自ら招いた結果でもある。米国の戦略核軍事力と韓国の非核軍事力を一体化して軍事力を運用すれば、米国の核使用決定に韓国が影響力を行使できるのではないかという希望を持っているためだ。しかし、それは「片思い」であり、無垢な「犠牲精神」に過ぎなかった。米国の抑止力のために韓国の軍事力を「差し出せば」寛大な処分を下してくれるだろうという、本気で米国のみに「全賭け」すれば米国が悪いようにはしないだろうという期待を抱いていたのだ。 バイデン政権がこのチャンスを逃すはずはなかった。尹政権が国政課題として進める戦略司令部を韓米連合司令部に服属させた。今年下半期に設置される予定の戦略司令部は、陸・海・空軍部隊だけでなく電子戦と宇宙戦能力を統合して北の核・ミサイル脅威に対応する司令部だ。有事の際、北の核兵器と作戦統制体系などを先制打撃し、ミサイル防御システムで北のミサイルを無力化させる最前線に戦略司令部が乗り出し、米軍は米国本土で戦略核兵器で報復できるようになる。 これが朝鮮が韓国との関係を「戦争中の敵対的な二国間関係」と規定した主な理由だ。以前は韓国とは「民族同士」を掲げ、「朝鮮戦争」は米国と戦うことだと言っていたが、その関係が質的に変わったと判断したのだ。韓国の軍事力と米国の核武力が「一体」となって朝鮮の「政権の終末」を目指すなら、韓国とも戦争せざるを得ない。米国を狙う戦略核ミサイルの開発に集中していた朝鮮が、韓国を打撃できる戦術核兵器を開発し、配置し、訓練しているのもそのためだ。 しかし、尹政権にはこのような現実があまり見えていないようだ。米国の望み通り日本との関係を一方的に改善し、韓米日3カ国軍事同盟化に向け大きな一歩を踏み出した。過去の日本帝国の強制労働問題を司法府の最終決定に反する形で「解決」するとして積極的に乗り出したうえ、今度は「事実上の軍事同盟」を進めている。韓米日防衛相が7月に採択した「韓米日安全保障協力枠組み覚書」は、韓日が軍事作戦において実質的に協力するための制度だ。韓米日は合同演習を定例的かつ体系的に行う予定であり、共同標準作戦手続きも樹立する。 周知の事実をここでもう一度確認しよう。韓国と米国はすでに合同演習を定例的かつ体系的に実施している。韓国軍と米国軍はすでに共同標準作戦手続きを樹立しており、これによって訓練を進めている。ならば、これから変わるのは、韓国と日本が軍事訓練を実施し、韓国軍と日本の自衛隊が標準作戦手続きを樹立することだ。すでに情報分野の協力は行われているため、事実上の軍事同盟に入ったのだ。 ■朝鮮半島まで飛んできた米戦略爆撃機 尹錫悦政権は「非理性的な北朝鮮政権」に対応するためには仕方がないと強弁するだろう。しかし、米国は韓米日同盟を「北朝鮮対応」に限るものとはみなしていない。2023年のワシントン宣言で「韓米両国はインド太平洋の平和と安定に努める」という約束を取り付けた。また韓米日3カ国の首脳が発表したキャンプデービッド宣言でも、3カ国の協力が韓米日だけでなく「(インド太平洋)地域、そして世界の安保と繁栄」のためのものだと宣言している。 今、朝鮮半島の南側では韓米合同演習「2024乙支(ウルチ)フリーダムシールド(自由の盾)」が実施されている。非常招集の対象になり、民防衛の避難訓練を経験した読者もいるだろう。これと関連した政府からの公示のショートメールを全員受け取ったはずだ。北の核軍事力に軍事的に対応するのがこの演習の目的だ。対話と外交は姿を消し、拡大抑止という戦略だけが残った。その戦略通りうまく戦うための軍事演習だけが残った。 これに先立ち、先月30日から3日間は京畿道平沢市(ピョンテクシ)の在韓米軍基地「キャンプ・ハンフリーズ」で、北朝鮮の核兵器使用を想定し、米軍の核戦力と韓国軍の通常戦力がともに防御・反撃する図上演習「アイアンメイス24」が初めて施行された。一体型拡大抑止のための演習だ。それより前の6月5日には、米国のB1B戦略爆撃機が朝鮮半島上空まで進出し、韓米連合空中訓練を実施した。米国の戦略爆撃機が韓国空軍のF15Kの護衛を受けながら合同直撃弾を投下し、縦心標的に対する精密打撃能力を示し、同時に韓国空軍のF15Kも実射撃を実施した。 尹錫悦大統領は「赤化統一を夢見て虎視眈々と大韓民国を狙っている北朝鮮政権に『侵略はすなわち政権の終末』という事実を確実に認識させなければならない」として、断固たる姿をみせようとしている。そうすれば、大韓民国は安全になるのだろうか。 ソ・ジェジョン|日本国際基督教大学政治・国際関係学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )