第154回 芥川賞受賞者・本谷有希子氏の記者会見(全文)
日本文学振興会は19日夜、第154回芥川賞・直木賞の受賞作を発表した。 芥川賞は、滝口悠生『死んでいない者』、本谷有希子『異類婚姻譚(いるいこんいんたん)』の2作が受賞し、直木賞は青山文平『つまをめとらば』が受賞した。 【中継録画】第154回 芥川賞・直木賞 受賞者3人の会見 受賞者の3人はによる者会見の模様をTHE PAGEで生中継した。
受賞作はこれまでの凶暴さがない?
司会:続きまして、同じく芥川賞の本谷有希子さんにお願いいたします。本谷さん、では今の感想を一言、よろしくお願いいたします。 本谷:今は本当にちょっと頭が真っ白な状態で。でも滝口さんのコメントをいろいろ聞いて、あ、ああいうふうに率直に言っていいんだなと思って、ちょっと安心しました。 司会:ありがとうございます。それではご質問の方、挙手をお願いいたします。はい、じゃあ真ん中の女性の方。 朝日新聞:朝日新聞のヨシムラです。おめでとうございます。 本谷:ありがとうございます。 朝日新聞:選考委員の奥泉さんが選評の中で、説話の構造を現代小説に生かしてとても成功されているという評価をされました。でその一方で、否定的な意見として、これまで本谷さんにあった凶暴さが失われていて、残念だっていう選考委員の方がいらっしゃったそうなんですが、そのことについてちょっとどう思われるか、伺えればと思います。 本谷:そうですね。割と今まで激しい欲望を持った人や、激しい感情を持った人たちが出てくる小説を書き続けていたので、今回、確かに専業主婦のサンちゃんは、ほとんどその激しい感情に突き動かされることもなく、のらくら生きてるっていう人物なんですけど。やっぱり私の場合、小説ってそのときの自分の人格にどうしても引っ張られちゃうので、昔は激しかったんですけど、最近はやっぱり、のらくらしたりとかだらだらしたりとか、だらしなくっていうのが自分になってるので、それがそのまま出ちゃった。だから今の私が、激しく書いても、たぶんご期待に沿えるような激しさではないんじゃないかなと。でもまたもうすぐ激しくなるんじゃないかなと思います。 朝日新聞:ありがとうございます。 司会:はい、続いて、じゃあ奥の眼鏡の方。右の。 読売新聞:どうも。読売新聞のウカイです。おめでとうございました。 本谷:ありがとうございました。 読売新聞:今日はずいぶん「おめでとう」って言われたと思うんですが、すでに。去年の10月もずいぶんおめでとうと言われたと思うんですが、去年の10月のおめでたと、今日のおめでたと、どこに共通点があって、どこに違いがあるか教えていただければ。 本谷:はい(笑)。10月のおめでたは、私が第1子の娘を出産したばかりで、今もうすぐで3カ月になるんですけど。そのおめでたと、このおめでたの共通点は、えーと。この共通点はちょっと見つからないんですけど、でも、赤ちゃんがおなかにいたときに小説を仕上げていて、で、私、2年半ずっとこう、さっきも言ったようにのらくらのらくらして、ちゃんと形になる小説を書けていなかったんですよ。 でも出産って決まったときに、その出産までになんとか小説を書かなきゃいけないと思ったときに初めて書けたので。それだといつ破水するか分からない状態で、ずっとやり取りをして直してたので、なんか。それで今まで3回ダメだったのに今回、彼女が生まれて、初めて、4回目で受賞ができたので、自分の中では娘と今回の作品というのはすごく関連してるような気がしています。 読売新聞:それとの関連なんですが、本谷さんは小説を書いていると登場人物になりきるところがあるっていうふうにも、ちょっとお伺いしたことがあるんですけれども、今回長女の方、ご出産されたときに日記で自分と顔がよく似てるって書いてたんですが、今回の小説の設定は主人公とパートナーの顔が似てくるっていう話なんですが、今回は書いているときにご自身のパートナーとも顔は似てくる現象はあったんでしょうか。 本谷:はい。ありました(笑)。この話の本当の本当のきっかけっていうのは実は、ちょっと私、パソコン詳しくないから合ってるか分からないんですけど、人から写真の整理をしたときに、この顔の人を全部、勝手に顔認証システムかなんかで、パソコンがより分けてくれる。その人の写真だけ集めてくれるっていう機能があるらしくて、それをしたときに私と旦那さんがなんでか知らないけど、いっぱいこうごっちゃになって入ってたって。そのパソコン内では、私のことを旦那さんと認識して1つのフォルダに入れてたっていう話を聞いたのが実はきっかけで。 なので実際、その写真を見比べても自分はどこが似てるか分かってなかったんですけど。なんかそういう現象ってあるんだなって思ったところから。1段落目を書いて。そのときにその中に、夫婦が顔が似てくるっていうなんかにある薄気味悪さを感じ取ったときに、あ、2年半書けなかったけど、これは書けるかもしれないっていうような予感がありました。 司会:よろしいでしょうか。続いてご質問の方。はい。じゃあ右の前の方。 ニコニコ動画:はい。ニコニコのタカハシです。ニコニコ動画はご存じでしょうか。 本谷:はい。 ニコニコ動画:ありがとうございます。はい。では視聴者から寄せられた質問を代読したいと思います。埼玉県30代の女性の方、ほか何名かからいただいてるんですけれども。今日のファッション、特に靴下について教えてくださいという。 本谷:これ、違うやつですよ、見ても。正直、取ると思っていなくて。それで着てく服も決めていなかったんですね。ゆるい、本当に家着みたいなの着て待ってて。赤ちゃんがいるので自宅でみんなで待ってて、それで取って、10分後に出発だって言われて、それから服を慌てて、こうやって。で、履いたときに、あ、間違ったって思ったんですけど。そのまま来ました(笑)。 ニコニコ動画:では偶然で、ということなんですね。 本谷:でももともと靴下はぐちゃぐちゃに履くのが好きなので。はい(笑)。 ニコニコ動画:ありがとうございます。続いての質問です。群馬県30代の方からの質問です。受賞おめでとうございます。今回の作品を読んだときに、妻にこう思われていたら嫌だなと思うところがたくさんあったのですが。本谷さんご自身が、配偶者に対して思う気持ちが反映されているのでしょうか。またこの作品は、配偶者の方は読んでいるのでしょうか。 本谷:(笑)。はい。配偶者の方は、『群像』に掲載された時点で読んでます。で、ちらちら私が原稿用紙をこう書いてるときに、ちらちら見てたので、たぶん夫婦の話だなっていうことと、自分が出てくるんじゃないかっていうふうに期待してたらしいんですけど、実際この話に出てくるすごく楽をしたい旦那さん像と、うちの本当の旦那さん像って真逆なので、それを読んだときにとてもがっかりしていました(笑)。はい。 ニコニコ動画:ありがとうございます。最後に、ニコニコユーザー、アニメの非常に好きな方が多くて。本谷さん『彼氏彼女の事情』の声の役者ということで認識をされている方が多いと思うんですけど、この後も声優に挑戦されたりする可能性ってあるんでしょうか。 本谷:19歳のときに。あのアニメをオンエアで見たときに、あまりの棒読み加減に絶望したので(笑)。もうないと思います。 ニコニコ動画:ありがとうございます。