福島第一原発の汚染水問題 「被災地の努力の尊重を」──福島大・東京大フォーラム
東京電力福島第一原子力発電所で発生し続ける汚染水。処理をしても多種類の放射性物質を取り除く浄化装置(ALPS)による処理を行っても、放射性物質のトリチウムを取り除くことはできない。このトリチウムを含む汚染水は、原発敷地内のタンクで保管されているが、タンクの数は既に900基に到達し、用地が足りなくなりつつあることが問題となっている。 災害を「検証」するとはどういうことか──日本災害情報学会などが東京大でシンポジウム 経済産業省で、こうした汚染水の処理方法について地中への注入、海、大気などへの放出などが検討されてきたが、費用や期間の面などから有力視されているのが薄めて海に流す「海洋放出」だ。しかし、この方法は、これまで福島県の漁業関係者が地道な努力を続けることで消費者の不安を取り除き、徐々に流通経路を回復させてきた流れをストップさせ、風評被害に特に苦しんだ震災後間もない時期に時計の針を戻してしまう懸念がある。 汚染水の問題に絡んで福島の漁業や農業がこのような問題に直面していることを知ってもらおうと、東京大学と福島大学はこのほど、都内で「原子力災害復興連携フォーラム」を開いた。フォーラム企画者の一人、関谷直也・東京大学総合防災情報研究センター准教授は「今、福島がどのような状況にあるのか。そして、この7年間、どのような努力で農業や漁業を復興させてきたのか。処理方法の問題を議論する前に、前提としてこれらのことを改めて分かってもらう必要があると考えた」と開催の目的を語る。
福島県の農業、漁業の放射能汚染対策の今
フォーラムではまず、福島県の農業について報告が行われた。福島大学の石井秀樹特任准教授は、県内の水稲の放射能汚染対策を紹介。カリウム肥料を使ってセシウムの吸収を減らす対策の効果もあって、今も続いている全量全袋検査では基準値(1キロ当たり100ベクレル)を超えるコメは4年連続で確認されていないことを紹介。また続いて放射能汚染による全村避難を余儀なくされた同県飯舘村復興対策課・農政第一係長の杉岡誠さんが、同村での営農再開に向けた数々の取り組みを説明し「今こそが復興の足掛かりを構築すべき時だ」と話した。 続いて、中央水産研究所海洋・生態系研究センターの森田貴己・放射能調査グループ長と相馬双葉漁業協同組合・参事の渡部祐次郎さんが、福島県の漁業の現状や海産物の放射性セシウム対策について話した。森田グループ長は総検体数5万以上というセシウムのモニタリング検査の結果などを説明し、「セシウムは問題ないが、これからトリチウム水の扱いが問題になってくる。トリチウム水の処分や廃炉が目的化しているが、真の目的は復興。風評被害の発生が極力少ない処理方法は何か、という視点が大事」と述べた。 いずれの報告からも、消費者に安全・安心な農産物や海産物を届けるため、福島県の被災地の人々が地道かつ大変な努力を積み重ねてきたことの一端がうかがえた。そして、今、なおその努力や工夫が続けられているということも忘れてはいけない重要な点だろう。