ミャンマー制裁は民主化に逆効果?中国の影響力拡大で国際紛争リスクも
ミャンマー国軍が、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相らを拘束し、国際的な非難を浴びている。米国をはじめとする経済制裁の可能性も高まるが、逆に中国の影響力が強まり、民主化が一層難しくなる可能性がある。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人) 【この記事の画像を見る】 ● 非難に動じないミャンマー国軍 ミャンマー国軍は、2020年11月の総選挙で不正があったとして、国民民主連盟(NLD)党首のアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相とウィン・ミン大統領、NLDの中央・地方政府幹部ら数十人を拘束した。ミン・アウン・フライン国軍総司令官が1年の非常事態宣言を行い、24人の閣僚、次官らを罷免し、新たに11人を任命することで、立法・行政・司法の全権を掌握した。 スー・チー氏は、「国軍の行動はミャンマーを独裁国家に戻すものだ」と非難し、支持者に「クーデター」に対して抗議するように呼び掛けた。 国際社会からは、ミャンマー国軍に対して非難の声が相次いでいる。バイデン米大統領は、「民主主義と法の支配への移行を直接攻撃するものだ」と声明を発表し、スー・チー氏らの即時釈放を求めた。そして、地域や世界のパートナーと連携して制裁すると警告している。 ところが、ミャンマー国軍は、国際社会から孤立しても一向に動じる様子がない。19年の「ロヒンギャ虐待問題」時のような、国軍関連企業への厳しい制裁が予想されるにもかかわらず、意に介していないようだ。それどころか、スー・チー氏やウィン・ミン氏らを刑事訴追するなど、強権的な姿勢をますます強めている。 ミャンマー国軍が、総選挙での惨敗で追い込まれて無謀な行動に走ったという指摘があるが、それよりも「なんらかの確証」を持って「クーデター」を起こしたというほうが、その行動を理解できる。そして、その「確証」とは、中国にあることは言うまでもない。
● 中国の経済的支えを後ろ盾にするミャンマー軍 中国は、ミャンマー国軍への支持を表明していない。 そもそも、中国はNLDと国軍の双方と良好な関係にあり、「ミャンマー各方面が適切に対立点を処理し、政治と社会の安定を維持するよう望む」とメッセージを出しただけだ。 香港やウイグルの人権侵害問題で、米国などから厳しい制裁を受けてきた中国は、「内政干渉」だと反論してきた(本連載第261回)。ミャンマーの「クーデター」についても、「内政不干渉」の姿勢を示すことで、暗に米国などを批判している。 ミャンマー国軍が、「クーデター」実行に際し、中国と接触した証拠は出ていない。それでも、ミャンマー国軍は、中国が「クーデター」を黙認するとともに、経済的には国軍を実質的に支持することになるという「確証」を持っているのだ。 というのも、内政不干渉の原則は、中国企業の活動による経済関係を制限するものではないからだ。 現在、ミャンマーの貿易・投資の約30%が対中国だ。かといって、米国などが経済制裁しても、残り70%がすべて失われるわけではない。米国などが撤退したビジネスには、中国企業が次々と進出して、米国などが空けた穴を埋めてしまうだろう。 また、東南アジアの多くの国は、中国との関係が深い。中国に忖度して経済制裁を見送る国も出てくるだろう。そして、米中双方に気を使っている日本政府がどう対応するかも怪しいものだ。コロナ禍で苦しむ日本企業の経営を考えても、ミャンマーとの経済関係を完全に断つことは考え難い。 要するに、ミャンマー国軍は、中国以外と行っている貿易・投資の大部分が、失われることはないと踏んでいるのだ。だから、国際社会からの批判に動じず、強硬姿勢をエスカレートさせているのである。