『トップガン』はなぜトム・クルーズをトップスターに導き、社会現象となったのか
そして『トップガン』が時代を超えて愛されている大きな理由は、音楽である。1980年代はMTV全盛の時代で、『フラッシュダンス』(1983)、『フットルース』(1984)など明らかにMTVを意識した演出の映画が大人気。サウンドトラックのアルバムも映画とともに大ヒットを記録していた。『フラッシュダンス』のプロデューサー、ジェリー・ブラッカイマーが『ビバリーヒルズ・コップ』(1984)に続いてサントラと映画の最高のコラボを実現させたのが『トップガン』だった。マーヴェリックと教官チャーリーのラブストーリーのバックに使われた、ベルリンの「愛は吐息のように」はアカデミー賞で主題歌賞を受賞。要所で何度か流れるケニー・ロギンスの「デンジャー・ゾーン」は、あまりに映画のイメージとぴったりで、特に冒頭の空母から戦闘機が飛び立つシーンに重なると、まるでロックのビートが戦闘機の燃料になっているかのような錯覚すらおぼえる。映画史でもこれほど映像と曲がマッチした瞬間は稀なケースだ。 “トムキャット”と呼ばれるF-14戦闘機のドッグファイトを、並行して飛ぶ機からとらえた映像や、パイロットたちがコールサインで呼び合う世界(マーヴェリックの本名はピート・ミッチェル)は、他の作品とは明らかに違うレベルのカッコよさを提供。『トップガン』公開後は、アメリカで海軍の志願者が急増し、日本でもこの映画を観てパイロットを目指した人が多数出たといわれている。マーヴェリックの愛車であるカワサキのバイク「Ninja」や、彼が身につけるレイバンのアビエーターサングラスは注目アイテムとなり、パイロットたちのジャケットへの憧れが、実際には劇中で使われていないMA-1の流行にもつながった。『トップガン』は映画の世界を越えて、社会現象を起こした作品になった。
マーヴェリックのパイロットとしての成長を軸に、教官との恋、ライバルとの確執、熱い友情、衝撃の悲劇による親友の死、父と息子の複雑な過去……と、エンターテインメントとして映画が求める要素がバランスよく配分されたことで、性別や世代を選ばずにアピールしたことも『トップガン』の特徴。アカデミー賞作品賞に絡んだり、批評家が激賞したりするタイプの作品ではなかったが、そのインパクトは観た人の心に長くとどまることになった。そんな『トップガン』のスピリットが完璧に受け継がれたのが『トップガン マーヴェリック』。亡き親友グースの息子、ルースターがマーヴェリックの教え子となり、わずかに言及された過去の恋人が登場したりする。そして音楽やアイテムがあの興奮を呼び覚ますので、可能であれば『トップガン』を観直してから、劇場に足を運ぶといいだろう。(斉藤博昭)