福井市立小学校の勤務時間改ざん、専門家は「氷山の一角」
福井市立小学校での教頭による勤務時間改ざんは、福井市教委が今年度から働き方改革に取り組む中で起きた。小林真由美・学校教育課長は、「本来なら管理職は、勤務時間が長ければ、ありのままを教委に報告し、どうすれば長時間労働にならないかを一緒に考える立場。市教委は長時間労働の記録があっても、それを理由に学校を厳しく指導していることもないし、なぜ改ざんしてしまったのかがわからない」と話す。ただ、教員の長時間労働が社会問題としてクローズアップされる中、管理職がありのままを報告することがはばかられた可能性がある。 福井市立小で教頭が教員の勤務時間改ざん 100時間超えの残業を過少申告
福井市教委によると、福井市内の学校でも10年ほど前までは、「長く勤務すれば勤務するだけ、優秀な先生」というような風潮となっていたが、ここ数年は教員の長時間労働の問題がクローズアップされてきたこともあり、改革を進めていたという。2年前からは福井県教委主導で、教員の出退勤を記録するようになった。昨年度には、市教委主導で、校長や事務職員などで構成するワーキンググループを作り、6回にわたって、長時間労働対策を協議。今年度から、お盆の学校閉庁や、行事の削減や、水曜日のノー残業デーなどの対策を始めていたという。 福井市には小学校教員が約800~900人いるが、月100時間超えの勤務時間を提出してくるのは2~3人だといい、「長時間労働が常態化しているという認識はない」と説明する。改ざんを行った教頭も、当該小学校には昨年も勤務していたが、改ざんしたのは今回が初めてだと話しているという。小林課長は「それぐらいの勤務時間になってしまうことが珍しいので、思わず100時間以内におさめなければ、と思ってしまったかもしれない」と話す。
教員の長時間労働については、文部科学省も問題視しており、昨年12月には、文部科学相の諮問機関・中央教育審議会の特別部会が、長時間労働の改善策について中間報告をまとめている。今年2月には中間報告に基づき、登下校の見守りや部活動指導といった業務は学校や教員が担うべき業務ではないため、地域や自治体などと役割分担を進めるよう改善を求めている。また、長時間労働改善のためには、勤務時間の実態把握も必要だとし、極力、自己申告方式ではなく、ICTの活用やタイムカードなどにより勤務時間を客観的に把握し、集計するシステムを直ちに構築するよう求めている。 中教審・学校の働き方改革部会の委員を務める教育研究家の妹尾昌俊さんは「自分のところにも、同じようなことがあったと訴える先生の報告もあり、氷山の一角だと思われる。教員の長時間労働がクローズアップされる中、管理能力がないと思われたくなく、改ざんをしてしまった可能性がある。なぜ、勤務時間の記録が必要なのか、理解がいきわたっていない面がある」と指摘する。 「勤務時間を記録するのは、健康を守るためでもあり、過労死などが起きた場合に証拠として残すためでもある。記録を残す目的を管理職が意識しなければならない」といい、「できれば、ICTなどを活用し、自己申告でない客観的なデータで出退勤を管理することも重要だ。自己申告であったとしても、管理職が書き換えられないような仕組みを作る必要もある」と話す。 教員の長時間労働の問題に詳しい内田良・名古屋大准教授は、「世間的に教員の長時間労働が問題視される中、教育委員会や管理職は個人の先生に、『早く帰って』『効率化を』と声かけするが、今までやっていた業務を、現場の先生が一人の判断でやめるというのは難しい場合もある」と説明する。「今回も教頭と教員はこれまでにも長時間労働について話をしていたのに、このようなことが起きてしまった。教育委員会や学校が、組織として、具体的に、『この業務はやらなくていい』というところまで提案できているかが問われている」と指摘した。 (取材・文/高山千香)