ベトナム少数民族初のミス・ユニバース、次世代の女の子をエンパワー
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【10月25日 AFP】美白、児童婚、教育の途絶──ベトナム人モデルで、識字率の向上を目指す活動を続けているヘン・ニエ(H'Hen Nie)さん(28)は、自身に求められてきたこうした古い価値観に抵抗してきた。今は、次の世代に別の道を示すことに意欲的に取り組んでいる。 ニエさんは、ベトナム中部高原の少数民族エデ(Ede)の農家出身で、世界各国から選出された女性たちが美を競う「ミス・ユニバース(Miss Universe)」で2017年のベトナム代表を務めた。そんなニエさんが母親から結婚を勧められたのは14歳のときだ。 「結婚なんて、とんでもなかった。当時の私は、泳いだり、斜面を滑り降りたり、森で遊ぶのが好きな子どもだった」とニエさんは話す。 ニエさんが強いられようとしていたのは、ベトナム社会の周縁で暮らす少数民族の多くの貧しい子どもたちがたどる道だった。幼いうちに結婚して学校を中退し、主要民族キン(Kinh)に比べると、権力のある立場に就ける可能性も低い。 ニエさんには、やりたいことがあった。「負けず嫌いで、勉強が大好きだった。夢もたくさんあった」 少数民族の女性として初めてミス・ユニバースのベトナム大会で優勝し、国際舞台で国を代表して5位に入賞したニエさんは、先駆者として認められている。現在は、発展途上国の女子の教育に注力する世界的な非営利団体「ルーム・トゥ・リード(Room to Read)」のアンバサダーを務めている。発展途上国の女子教育の問題は、新型コロナウイルスによって格差の現実が世界中であぶり出されたことで、一層浮き彫りにされている。 ノーベル平和賞(Nobel Peace Prize)受賞者のマララ・ユスフザイ(Malala Yousafzai)さんが創設したマララ基金(Malala Fund)の報告によると、新型コロナウイルスによる危機が収束するまでに、中等教育段階で二度と学校に戻れなくなる恐れがある女子生徒は世界で2000万人いるという。新型コロナウイルスの感染拡大で貧困状態に陥った家族が幼い娘を嫁がせると、少女たちは教育を受けることを断念せざるを得なくなる。児童婚の廃止に何年も取り組んできた複数の慈善団体も、これまでの進展が帳消しになると警鐘を鳴らしている。 ■美白を求める同調圧力を拒否 ベトナムの法的な婚姻可能年齢は18歳だが、国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)によると10人に1人の少女が18歳になる前に結婚している。少数民族の場合、その割合は、ほぼ5人に1人だ。 6人きょうだいと共に伝統的な高床式住居で育ったニエさんは、少数民族の女性として生まれた自分に求められることを小さな頃から知っていた。しかし、同調圧力に屈することを断固拒否してきた。 何が美しいかについてさえ、戦わねばならなかった。 浅黒い肌に対する偏見「カラーリズム」はアジア全域に広がっているが、昨今は、人種間の平等を求める「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」運動の影響もあり、色白の肌が礼賛される古い考えへの反発が起きている。 ニエさんは、少女のときからすでに時代を先取りしていた。母親に美白製品を使うように言われても、それを断って遊びに出掛けていたとニエさんは振り返る。「10代の子たちは強力な美白クリームをよく買っていた。でも、彼女たちのようにはなりたくなかった」 ニエさんは、結婚を勧める母親に反抗する代わりに本を読み、ベトナム語を独学した。(公用語の)ベトナム語は、地元の方言しか話されていない故郷の村から抜け出すためのパスポートだった。 ニエさんが南部ホーチミン(Ho Chi Minh)で過ごした最初の頃の生活は地味なものだった。企業財務を大学で学ぶ費用を稼ぐために家政婦として働いていると、家族も夢を認めてくれるようになった。 ニエさんは言う。「母が、私の学費のためにお金をためてくれるようになった。しわ寄せはすごく大きかった。きょうだいは、食事の量も減らされたんじゃないかと思う。おやつなんて絶対にもらえなかったはず」 ■少女たちは、必要な道具さえ与えられれば成功する ベトナムの経済の中心地ホーチミンで数年過ごした後、ニエさんはモデルとしてチャンスをつかみ、それから間もなく、少数民族の女性として初めてミス・ユニバースのベトナム代表を射止め、突然、注目を浴びる。 優勝したニエさんに対して差別主義者たちは、美しいというには肌が黒過ぎると難癖を付け始めた。だがバッシングされたことでニエさんは、貧困家庭に生まれた少女たちに学ぶ楽しさと自信を教えようという決意を強めた。 「我慢ならないのは、地元の人たちが何か言われること。私の出身地域の人たちを肌の色でけなさないでほしい。だから声を上げることにした」 今では最大の応援者となった母親の助言に従い、ミス・ユニバースの賞金全額は学校に通う子どもたちの奨学金制度に充てた。 ミス・ユニバースに出場して以来、ニエさんはベトナム中部の農村地帯に図書館をつくるため、またアジア・アフリカ全域の少女たちの中等教育修了を支援するため、数万ドルの資金を集めてきた。 進学を望む、年齢が上の少女たちにも助言を行っている。 「学校に通っている女の子には、もっと勉強するといいよと勧めている。苦労していれば、学費の支援を申し出る」 少女たちは、必要な道具さえ与えられれば、行く手を阻まれることなく成功する、とニエさん。「このメッセージを共有し、他の人たちの人生を変えたい」とニエさんは話した。 映像は9月に取材したもの。(c)AFPBB News