スマホとは違う、ローカル5G向けデバイスに求められる“信頼性”とは アルプスアルパインに聞く
ローカル5Gの本格的な立ち上がりに向けて拡大が求められているものの1つに端末が挙げられるが、その端末開発に新たに名乗りを上げたのが、電子部品や車載情報機器などを手掛けるアルプスアルパインだ。同社は2022年4月27日に「5G通信デバイス評価キット」の提供を開始、顧客ニーズを把握してローカル5G事業への本格参入を目指すとしている。 【画像】ローカル5G向けの「5G通信デバイス評価キット」 一方で、なぜ自動車関連の事業が主軸の同社がローカル5Gへの参入を打ち出したのだろうか。またローカル5Gのデバイス開発に当たって、同社の強みがどのような部分で生きると考えているのだろうか。電子部品マーケティング部2グループの渡辺裕文氏と、D1技術部第4グループマネジャーの川上歩氏に話を聞いた。
スマートフォンとは違う、車載向け通信モジュールに求められる要素
渡辺氏によると、アルプスアルパインがローカル5Gに参入する契機となったのは、2021年3月に開発とサンプル出荷を発表した車載用5G NRモジュール「UMNZ1シリーズ」にあるという。同社はこれまでWi-FiやBluetoothなど、車載機器向けを中心とした通信モジュールを多く手掛けてきたが、一方で自動車業界全体の動向として、現在CASE(Connected、Autonomous、Shared & Services、Electric:コネクテッド、自動運転化、シェア・サービス化、電動化)というキーワードが注目されているという。 そこで同社では今後、車載機器からクラウドに接続するTCU(テレマティクス制御ユニット)などの需要が増えると考え、5Gの通信モジュールを開発するに至った。最近はハイブリッド車や電気自動車が増え電動化が進んでいること、さらに将来自動運転車の実現が見据えられていることを考慮すれば、車載用の通信モジュールがより重要になってくるのではないかと渡辺氏は話している。 同社でも過去にモバイル通信モジュールを開発した経験はあるそうで、2G時代にはCDMA方式による車載向け通信モジュールを手掛けていた。だが3Gで通信モジュールは手掛けておらず、4Gで開発を再開したが「鳴かず飛ばず」だったと渡辺氏は話す。 ただ、間が空いているとはいえ、通信モジュール開発の取り組み自体は、プライオリティを下げながらも社内で継続的に取り組んできた。そして5G時代となり、コネクテッドの重要性が高まったことを受けて開発したのがUMNZ1シリーズだ。 車載用の通信モジュールの開発に当たっては、スマートフォンなどの民生品とは大きく異なる環境で利用されることもあって、耐振動、耐温度、そして長寿命であることなど非常に高い信頼性が求められる。民生品はマイナス20度から60度の範囲で設計されている用可能温度についても、UMNZ1シリーズはマイナス40度から85度と、より厳しい環境で利用できるよう設計されており、民生品では数年程度の製品寿命も、より長く利用される車載機器向けとなると10年利用できる耐久性・堅牢(けんろう)性が求められるという。 そうした車載向けならではの厳しい要求に応えるべく、同社では耐久性や堅牢性を実現するための製品設計や性能評価に非常に力を入れている。自動車産業ではIATF(国際自動車産業特別委員会)による国際的な品質マネジメントの基準が存在するが、同社ではそれだけにとどまらず、顧客の要望に応じた独自の条件などに対応した品質管理をする手法やノウハウを持っており、それを設計、開発、フィールドテストでの評価などに反映させているという。 そうした取り組みの1つ1つは「地味なノウハウ」だと渡辺氏は話すが、それらの積み重ねがUMNZ1シリーズで高い信頼性を実現するのに役立っているようだ。