上田誠仁コラム雲外蒼天/第22回「1980年のヘイワード・フィールド~思い出のオレゴン留学~」
数々の名ランナーを世に送り出してきた山梨学院大・上田誠仁監督による連載コラム「雲外蒼天」。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます! ******* 東京2020オリンピックはコロナ化の影響を受け、1年遅れの昨年開催された。残念ながら無観客開催ではあったが、陸上競技は男女合わせて2個のメダルと6人の入賞者を輩出したことは記憶に新しい。 オレゴン世界陸上代表内定会見の様子 特に世界との力の差を大きく縮めてくれたのが女子1500mの田中希実選手(豊田自動織機)だ。準決勝で日本人初の3分台(3分59秒19)に突入し、決勝進出。決勝でも再度3分台で走破して8位入賞。このシーンはまさに全身が泡立つような感覚を覚えた。 女子オリンピック中距離種目で入賞したのは、今から1928年のアムステルダム大会800mにおいて人見絹枝さんが達成(銀メダル)して以来であり、1500mでは男女合わせて初の快挙であった。 さらには、男子3000m障害の三浦龍司選手(順大)の圧巻の走りに度肝を抜かれた。中長距離の専門家として度肝を抜かれるという表現はふさわしくないのでは、とお叱りを受けるのを覚悟でこの言葉を使わせていただく。予選で8分09秒92の日本記録を樹立し決勝へ進出。これは1972年ミュンヘンオリンピックにて同種目決勝進出を果たした、小山隆治さん以来49年ぶりの快挙でもある。決勝では最後の水濠を越えてからの猛烈なラストスパートで感動の7位入賞を果たした。トラック種目において、リレー以外の個人種目での入賞も、シドニー大会10000mにおいて高岡寿成さんが7位に入賞して以来21年ぶりであった。 陸上通の読者の皆様方にとっては釈迦に説法の、既にご存知の話題かもしれないが、この2人を含むアスリート達が先日行われた日本選手権にて存分に世界を意識した走りを披露してくれている。 そして、いよいよ世界選手権が7月に米国のオレゴン州ユージーンにあるヘイワード・フィールド(オレゴン大学/U B C)にて開催される。世界ジュニア選手権や全米オリンピックトライアル、全米学生選手権も行われるような競技場が大学校内にあるのもアメリカらしいと言える。 全米陸上競技の聖地とも言えるこの競技場を舞台に、日本代表選手がどのように戦いを挑むのか待ち遠しいかぎりである。 実は、私自身にとってオレゴンはとても深い思い出が刻まれた場所でもある。 順天堂大学4年生になる前の春休みを待って、私にはある決心を固めていた。この思い出を語るには、自分の心の中にある思い出の巻尺を1979年の梅雨時まで引き戻さなければならない。