『進撃の巨人』を大成功に導いた梶裕貴の功績 エレンに“魂を捧げた”10年を振り返る
「継承」の演出として使用された梶裕貴の“実子の声”
●『プロフェッショナル 仕事の流儀』での異例の試み 2023年には、梶裕貴とエレン・イェーガーの10年に及ぶ関係性は、さらなる進化を遂げることとなる。最終回を前にした2023年10月、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK総合)で放送された「エレン・イェーガー」編において、梶は声優という役割だけでなく、番組内の脚本協力という役割も担うことになった。同番組がアニメキャラクターを主役に据えること自体が前例のない試みだったが、声優がキャラクターの言葉を紡ぎ出すという営みは、アニメーション史上でも特筆すべき出来事となった。 通常、このような特別番組の脚本は、原作者やシナリオライター、あるいは番組の脚本家が担当するものだろう。しかし今回、その慣例を変更した背景には、原作者・諫山創の意図があった(※)。作品世界と現実との境界をあえて曖昧にしたい。そして、10年という時を重ねてエレンを演じ続けてきた梶だからこそ表現できるものがあるはずだと。この特別な企画の根底にあったのは、梶自身の解釈も含めたエレン像を描きたいという思いだった。 声優として演じることと、キャラクターの言葉を紡ぎ出すことは、どちらも作品への深い理解と愛情を必要とする営みでありながら、まったく異なる創作行為だ。梶が10年という歳月をかけて築き上げられた深い理解と、エレンという存在への限りない愛情が、この稀有な挑戦を可能にしたのだろう。そういう意味でも、本作『進撃の巨人』と梶の強い結びつきを感じずにはいられない。 ちなみに『進撃の巨人』の最終話制作に密着した『100カメ』(NHK)では、物語のクライマックスとなる地鳴らしのシーンで、人類が追い詰められる中で鳴り響く赤ん坊の泣き声に、梶裕貴の実子の声が使用されていたことが明かされている。これは作品の重要なテーマである「継承」を象徴する演出として選ばれた心温まる采配であり、親子でこの作品に関わることとなった貴重な瞬間となった。 『劇場版「進撃の巨人」完結編THE LAST ATTACK』は、梶とエレンの10年に及ぶ真摯な対話の集大成といえるだろう。それは同時に、一人の声優が作品と共に成長し、新たな表現の地平を切り開いていく過程の証でもある。梶裕貴のキャリアを語る上で、『進撃の巨人』という作品は今後も色褪せることのない、重要な一章として刻まれ続けていくはずだ。 参照 ※ https://x.com/KAJI__OFFICIAL/status/1716470814411989431
すなくじら