廣岡達朗コラム「大山悠輔のFA残留と山田哲人の契約更改 自然の法則とは何か?」
阪神に残留。これでいいのだ
阪神・大山悠輔が古巣残留を決断した。FAの権利を取って他球団の評価を聞くのはいい。その結果、育ててくれた球団への感謝の気持ちを優先させた。褒めてやりたい。大山は阪神でプレーすることを誇りに思わなければいけない。 【選手データ】大山悠輔 プロフィール・通算成績 お金をもらえればいいという考えは間違っている。お金を終身、もらえるのならともかく、そんな都合のいい話は世の中にないのだ。 巨人や阪神が他球団の選手を獲らずに自前で教育して勝ったら、私はうれしい。この2球団は模範を示して、ウチの伝統はこうであるという教育をするべきである。 大山が巨人に来ていたら、どうなっていたか。阪神時代と同じ成績を残せるとは限らない。逆に巨人で通用したら、それまでレギュラーを張っていた岡本和真ら主力選手がダメだったという証拠。そうではなく既存の選手も切磋琢磨して巨人とはこうだという伝統を教えてもらいたいと思っていたが、阪神に残留。これでいいのだ。 ヤクルト・山田哲人は現状維持の年俸5億円プラス出来高でサインした。「自分の一番の持ち味はスピード。そのスピードを取り戻したい」と来季に向けての抱負を語り、ベストナイン獲得にも意欲を示していた。その気持ちは買える。ベテランは黙っているより、目標を口に出したほうが前向きになれる。一方で、自然の法則を理解していないから、そういうことが言えるのだ。
優秀なアスリートも年齢とともに衰える
では、自然の法則とは何か。 どんなに優秀なアスリートでも年齢とともに衰える。そこを理解せずに好き勝手な生活をして、いつまでも良い状態を維持できると思ったら大間違いである。神様はそのようにして人間を創っていない。
自然の法則はそれだけ厳しい
山田に話を戻す。来年33歳のシーズンを迎えることを思うと、若いころのような結果は絶対に出ない。今は分からなくとも、そのときに「自然の法則にはやはり勝てない」と悟ったらいい。 楽天を退団した田中将大が今から4年前の2020年にヤンキースからリリースされたのは、自然の法則をアメリカは知っていたからだ。日本の球界はそうではないため、楽天に復帰した田中に9億円もの年俸を払った。挙げ句の果てに年俸は毎年億単位で下がり、古巣を去ることになった。 かつては田中もシーズン24勝0敗の圧倒的な結果を残してチームを日本一へと導いた。そのお世話になった球団で力を発揮できない以上、もう終わり。自然の法則を知らないから、現役続行を希望するのだ。 ヤクルト・石川雅規もしかり。来季の彼は45歳になるが、勝てなくても許されるのなら何歳まででもできる。しかしプロは勝たなければ生き残れない。NPB現役最多の186勝を挙げていて大台まであと14勝。彼の記録達成のために、2年連続5位のチームがこのまま沈み続けていいのか。 自然の法則はそれだけ厳しいのだ。その真理を私は語っているに過ぎない。 ●廣岡達朗(ひろおか・たつろう) 1932年2月9日生まれ。広島県出身。呉三津田高、早大を経て54年に巨人入団。大型遊撃手として新人王に輝くなど活躍。66年に引退。広島、ヤクルトのコーチを経て76年シーズン途中にヤクルト監督に就任。78年、球団初のリーグ制覇、日本一に導く。82年の西武監督就任1年目から2年連続日本一。4年間で3度優勝という偉業を残し85年限りで退団。92年野球殿堂入り。 『週刊ベースボール』2024年12月16日号(12月4日発売)より 写真=BBM
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