「メゾン マム」最高醸造責任者が語る理想のシャンパーニュ
ヤン・ムニエ氏はメゾンの歴史や哲学を自分のものとするために、歴代の最高醸造責任者たちが遺したバック・ヴィンテージの試飲を行った。こうすることで、その年のテロワールやセラー・マスターたちの思考などが理解できるのだという。 「何より、“メゾン マムのスタイルとは何か”が理解できるのです」とヤン・ムニエ氏。 たとえば、メゾンが大切にしているのは黒ブドウ品種のピノ・ノワールだ。通常、黒ブドウ主体のシャンパーニュは芳醇でコクのあるスタイルに仕上がることが多いが、メゾン マムは軽やかで繊細な味わいに仕上げる。この理由を尋ねると、ヤン・ムニエ氏はこう教えてくれた。 「私たちが理想とし、使用しているピノ・ノワールは、この品種の名産地モンターニュ・ド・ランスの北向きの畑で育ったもの。美しい酸味を保ったまま、ゆっくりと育ちます。これにシャンパーニュ地方の南にあるコート・デ・バールのフルーティーなピノ・ノワールをブレンドするのです。そして、このピノ・ノワールにブレンドするにふさわしいシャルドネとムニエを選ぶことで、“メゾン マムのスタイル”が出来上がるのです」 また、今回の来日に際し、ヤン・ムニエ氏はメディアを対象に一風変わったセミナーを行っていた。実はこれも、メゾンが大切にするピノ・ノワールの多彩な表情を体感してもらうためのものだった。 その実験は、メタルやレザー、ガラスの球体など、質感の異なるオブジェを手にしつつ、「マム グラン コルドン」を試飲するというもの。最初のひと口はフレッシュ&フルーティー、素直に美味しいと思えるのだが、メタルに触れながら飲むとどこか冷たさを感じ、レザーを手にすると軽やかな渋みが顔を出す。そして、ガラスの球体を持ちながら飲むと味わいがまろやかに。 「冷たさはミネラル感、軽やかな渋みはタンニン、まろやかさはボリュームとテクスチャーを表しています。これらは科学的に証明されたものではありませんが、触感が味に与える影響を体感することで、ピノ・ノワールの多彩な表情を知っていただきたいと思いました」 この実験もまた、彼自身が“メゾン マムのピノ・ノワール”を知る上で役立つのだという。 自分は新たなスタートを切ったばかり。やらなくてはいけないことは山ほどある。気候変動に対応する栽培の取り組みや、ブドウ農家との信頼関係の構築、なにより、それぞれのキュヴェの品質を守りつつ、より高めなくてはならない。ヤン・ムニエ氏の胸の内には多くの思いが隠されている。 「テロワールをリスペクトしつつ、エレガンスに満ちたシャンパーニュを造りたい。私たちのシャンパーニュは“幸福の瞬間”を分かち合えるものでありたいと思っています。これからの日々を思うとワクワクします(笑)。“進化の旅”を続けていきたいですね」