うつ病患者の脳では何が起こっているのか…最新の研究でついにわかった「危険因子」
うつ病の脳で何が起きているのか (3)脳内炎症説
うつ病の原因として現時点も最も有力とされているのは、脳の炎症、とくにミクログリアやアストロサイトといった脳の免疫機能に関係するグリア細胞での、炎症性サイトカイン産生の亢進{こう・しん}による、という説です。 この説はもともとは、リウマチや感染症などによって体の末梢部分に持続的な炎症がある人では、うつ病のような抑うつ気分などが高い頻度でみられるという現象が発端になっています。このことから、うつ病は炎症性サイトカインが脳に働きかけることで生じるのではないかと考えられるようになったのです。 そういわれると、あれ? どこかで聞いたことがある話だぞ、と思われた方もいらっしゃるでしょう。そう、これは第1章で述べた、生理的疲労によって疲労感が生じるメカニズムと、炎症が起こる場所が末梢か脳内かの違いはあっても、同じなのです。それでは、なぜ一方が「うつ病」になって、一方は「疲労感」でおさまるのでしょうか? 先回りして言えば、じつは、この疑問の答えが見つかれば、うつ病の予防や治療の方法が見つかるはずだと、いま考えられています。そしてこの本も、この疑問の答えを見つけることを大きな目的の一つにしています。しかし、そこまでの道のりは簡単ではありませんので、これから順を追って明らかにしていこうと思います。 話をもとに戻します。 うつ病の原因が脳の炎症であるという説は、死亡したうつ病患者の脳の調査や、うつ病患者のPET(Positron Emission Tomography)検査、実験的に脳に炎症を誘導した動物による実験結果など多くの検査から、ほぼ確かであると考えられています。 すると、うつ病の原因はなにかという問題は、「うつ病患者での脳の炎症の原因はなにか」という問題に絞られてきます。 さらに連載記事<じつは「日本」が世界を一歩リードしている「疲労の研究」…「疲労」と「疲労感」はちがう>では、ひきつづき疲労について詳しく解説しています。
近藤 一博