うつ病患者の脳では何が起こっているのか…最新の研究でついにわかった「危険因子」
うつ病の脳で何が起きているのか (2)モノアミン仮説・セロトニン仮説
脳内で働く神経伝達物質のうち、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなどを総称して「モノアミン」といいます。モノアミンには大ざっぱにいうと、脳の機能を高め、気分を高揚させる働きがあります。うつ病の「モノアミン仮説」とは、うつ病は脳内のモノアミンが不足することが原因で発症するという説です。 この説の始まりは、イプロニアジドという抗結核薬を投与された結核患者が、興奮したり陽気になったりするという発見でした。調べてみると、この薬はモノアミン分解酵素を阻害してモノアミンの分解を阻み、脳内のモノアミンの濃度を上昇させることがわかりました。 そこで、脳内モノアミン濃度の低下がうつ病の原因ではないかと考えられるようになり、脳内モノアミン濃度を上昇させる薬剤が抗うつ薬としていろいろと開発されたのです。 やがて、これら抗うつ薬の中でも、モノアミンの一つのセロトニンの濃度を選択的に上昇させる選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と呼ばれる薬剤は、より高い抗うつ効果を示すことがわかりました。そこで、うつ病の原因は脳内のセロトニンの不足であると考えられるようになったのです。これが「セロトニン仮説」です。 しかし現在では、モノアミン仮説もセロトニン仮説も、うつ病の原因説としては誤っていると考えられています。 その理由は二つあり、一つめは、これらの薬剤が抗うつ効果を発揮するのに、投与してから2週間から1ヵ月かかることが挙げられます。もしモノアミンやセロトニンの不足がうつ病の原因だとすると、投与直後から効き目がないとおかしいと考えられるのです。 二つめの理由は、うつ病患者の脳を調べても、実際にモノアミンやセロトニンが不足しているという証拠が得られないことです。 とはいえ、これらの抗うつ薬は、うつ病患者の少なくとも半数にはとても有効であることも確かなのです。したがって、何らかの機能は果たしているはずです。それは何なのかについては、モノアミンやセロトニンが過剰になることで気分を上昇させるとする説、SSRIが神経成長作用を持っていてうつ病患者で機能が低下している神経を修復するとする説など、いくつかの仮説があります。 ただ、いずれにしても、これらの仮説からも、うつ病患者の脳がどのように変化しているのかは見えてこないようです。