うつ病患者の脳では何が起こっているのか…最新の研究でついにわかった「危険因子」
YouTubeブルーバックスチャンネルに、『疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた』の著者・近藤一博さんが出演! 【写真】じつは「日本」が世界を一歩リードしている「疲労の研究」 複雑な「疲労のメカニズム」をわかりやすく描き、第40回講談社科学出版賞を受賞した本作について語っています。 あなたが疲れを感じている時、体の中では何が起きているのか? 知られざる「疲れの正体」に驚くこと間違いなし...!必見の内容です! 【疲れの原因とは?】世界の疲労研究をリードする第一人者が教える「疲労の正体」【近藤一博】 そこで今回は近藤先生に感謝を込めて『疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた』の一部を特別に1ヶ月間限定公開します!是非Youtubeとあわせてお楽しみください! 2023年に日本人10万人を対象に実施した調査によると、じつに78・5%の人が「疲れている」と答えたという。だが欧米では、「疲れているのに働く」ことは自己管理ができないだらしない行為と見なされるため、疲労の科学的な研究は軽視されてきた。「疲労」が美徳とされ、お互いを「お疲れさま」と称えあう特異な国だからこそ、日本の疲労研究は世界のトップを走っている。その日本で疲労研究をリードする著者が、数々のノーベル賞級の新研究をなしとげて見えてきた、疲労の驚くべき実像とは。 *本記事は、近藤 一博『疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた』(講談社ブルーバックス)を抜粋、編集したものです。
うつ病患者の脳では何が起こっているのか 危険因子「SITH - 1」を発見
前章での慢性疲労症候群の説明でも述べたように、原因がわからないまま疾患発症のメカニズムを議論しても、何もわかりません。 しかし、幸いにもわれわれは最近、うつ病を引き起こす危険因子であると考えられる遺伝子が、HHV‐6が宿主の体内で潜伏感染しているときに産生されているのを発見することができました。この遺伝子をわれわれは、「SITH‐1」と名づけました。SITH‐1は「シスワン」と発音します。命名の由来は、のちほどお話しします。 SITH‐1がつくるタンパク質に反応して産生される抗体をうつ病患者が持っているかを調べたところ、約80%のうつ病患者が陽性でした。そして陽性の場合のうつ病になりやすさは、陰性の場合の12・2倍にものぼることがわかりました。 科学的には、ある因子が原因の一つである場合は、「原因」とは言いきらずに「危険因子」と言うにとどめるのが正しいのですが、この数字は、「SITH‐1がうつ病の原因である」と言っても過言ではないほどの値です。 慢性疲労症候群の病的疲労においては、「原因が不明」という問題が発生メカニズムの解明を妨げてきました。しかしSITH‐1の発見により、うつ病の病的疲労においては、この問題を乗り越えた議論ができるかもしれない、という期待が高まってきました。 結論を先に言ってしまうと、SITH‐1がどのように病的疲労をもたらすかを解明することによって、うつ病の問題がかなり解決することがわかったのです。この章では、SITH‐1がうつ病の原因であることがどうしてわかったのか、われわれはSITH‐1をどのように発見したのか、など、SITH‐1とうつ病との関係を、順を追って説明していきます(注)。 (注) うつ病は疾患名として表記するときは「大うつ病」と表記されます。しかし本書では「大うつ病」よりも広い意味を持つ「うつ病」という言葉を用いて、「大うつ病」に限らない広い意味でのうつ病について説明します。