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33億円で落札のティラノ全身化石、今後の研究に懸念も

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ナショナル ジオグラフィック日本版

東京・国立科学博物館にもレプリカがある「スタン」の全身骨格を匿名者が落札

 30年以上前、米サウスダコタ州でスタン・サクリソンという名のアマチュア古生物学者が、巨大なティラノサウルス・レックスの化石を発見した。全長約12メートルで、全身の骨格がほぼそろっていた。発見者の名をとって「スタン」と名付けられたこの化石は1992年に発掘され、以後、同州ヒルシティにある民間のブラックヒルズ地質学研究所に保管されていた。この研究所を訪れたことがなくても、スタンの複製標本を目にした人もいるはずだ。スタンの型から作られた質の高いレプリカは、東京からニューメキシコ州アルバカーキに至るまで、世界各地の博物館に展示されているからだ。 ギャラリー:決定版!奇跡の恐竜化石たち 写真23点  ところが2020年10月6日、そのスタンがオークション会社クリスティーズで競売にかけられ、3180万ドル(日本円で約33億円)で落札されるという事態が生じた。落札額は化石の競売としては最高額だ。落札者が誰なのかは今のところ(20年10月13日現在)明かされておらず、専門家はスタンが永久に科学の世界から失われてしまうのではないかと懸念している。  化石を研究する古生物学者は、骨などの計測を繰り返し行い、最新の技術や道具が開発されれば、それを使って新たな分析結果を出すこともある。でも落札者が個人の収集家だとすると、今後、スタンの研究をどこまで認めてくれるのかはわからない。

そもそも、なぜ競売に?

 スタンを競売に出したブラックヒルズ研究所は、「スー」という名のティラノサウルス・レックスをめぐる争いで過去にも話題になった。米連邦捜査局(FBI)も巻き込み、アメリカ先住民との法廷闘争にまで発展したスーの骨格は、最終的にシカゴのフィールド自然史博物館が836万ドル(現在の価値にして1350万ドル:日本円で14億円)で買い取っている。  スタンは、ブラックヒルズ研究所の系列であるヒルシティ博物館に長年展示されていた。研究所は、スタンの樹脂型を他の博物館へ販売するほか、希望する研究者にスタンを研究する許可を与えていた。おかげで、強力なあごの力や、柔軟な頭骨など、スタンを基にしたティラノサウルス関連の論文が数多く発表された。  カナダ、トロントにあるロイヤル・オンタリオ博物館古脊椎動物部門の責任者で、古生物学者のデビッド・エバンス氏は、「これまでに見つかったティラノサウルスのなかでも最も優れた部類の化石標本であることは間違いありません。専門誌でも何度も取り上げられています。ティラノサウルス・レックスを理解するうえで、欠かすことのできない標本です」と、スタンを絶賛する。  事の発端は2015年、ブラックヒルズ研究所の株35%を所有するニール・ラーソン氏が研究所を訴えたことだ。サウスダコタ州の地元紙「Rapid City Journal」によると、ニール氏はその3年前にビジネス上のトラブルなどが原因で取締役を解任されていた。これに対してラーソン氏は、研究所の財産を売却して自分の持ち株分を支払うよう求めていた。  ブラックヒルズ研究所のプレスリリースによれば、2018年に裁判所はスタンを競売にかけ、その売り上げをラーソン氏への支払いに充てるよう命じている。また、スタンの売却後も研究所はスタンの樹脂型を作成して販売する権利を維持することとなった。  また同研究所は、20年10月7日付で発表したプレスリリースで、「(スタンの)落札者が博物館ではないと知り、残念に思います。新しい所有者がいつの日かスタンを再び一般に公開し、たくさんの人の目に触れ、今後も研究が続けられることを願っています」と述べている。  クリスティーズの科学自然史部長のジェームス・ヒスロップ氏は、2018年にスタンの競売手続きを開始した。そして2020年10月6日、競売にかけられたスタンを、電話で参加した匿名入札者が落札した。  ナショナル ジオグラフィックのメール取材に対し、ヒスロップ氏は落札者の詳細についてのコメントを避けた。個人の収集家なのか、公共の研究機関なのかさえ、明かすことはなかった。

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