バイデン政権は財政赤字を放置するか? MMT理論の危険性
日本の財政は破綻しないと筆者(塚崎公義)は考えていますが、それでもMMTは危険だと思います。まして、基軸通貨国のMMTは大変迷惑だ、と筆者は考えています。 新型コロナ不況への対応として、各国政府は巨額の財政支出を行なっています。それにより財政赤字が増えて、政府が破産する可能性が高まる、インフレになる、等と心配している人もいるでしょうから、数回にわたって財政を考えるシリーズを組むことにしました。今回は第4回です。
米国の新理論MMTは画期的だが危険
米国でMMT(Modern Monetary Theory、現代金融理論)と呼ばれる理論が話題になっています。自国通貨建てで国債を発行するなら、借金が返済不能になることはあり得ないのだから、インフレにならない限り財政赤字を気にしなくて良い、という考え方です。 新型コロナ不況への対策によって各国の財政赤字が巨額化するにつれて、再び注目を集めるようになっていますし、民主党左派が支持していることから、バイデン政権がこのまま成立すればMMTが一定の影響力を持つかもしれません。 主流派経済学からは厳しい批判を受けていますが、「日本は財政赤字が巨額だけれどインフレになっておらず、MMTの成功例と言える」などと言っているようです。 筆者は、日本の財政は破綻しないと考えているので、景気を危うくしてまで緊縮財政を焦るべきではない、という点ではMMTと似ています。 しかし、それでも無理なく緊縮財政ができるなら、そうすべきだと思います。財政赤字が大きいと、インフレになった時にそれを加速するリスクがあるからです。 具体的には、10年後に少子高齢化で労働力不足が深刻化してからの増税は、失業を増やさないので、積極的に実施すべきだと考えています。その点については拙稿『増税は10年後に! 「巨額赤字で財政は破綻する」が誤りである理由』をご参照いただければ幸いです。
MMTはインフレを起こす発火装置ではなく加速させる燃料
超金融緩和時の財政赤字というのは、大胆に単純化して言えば、政府が日銀から借金をして財政支出を行なうことですから、人々が大量の紙幣を持つことになります。もっとも、人々がインフレ懸念を持たなければ、その紙幣は老後のための貯蓄として銀行に預けられるだけで、インフレにはなりません。それが現状です。 ところが、人々がインフレを予想するようになると、「値上がりする前に買おう」という「買い急ぎ」の動きが出てきます。 財政支出を増税で賄っている場合には、人々がそれほど金を持っていないので、買い急ぎをしたくても少ししかできませんが、MMTの場合には人々が大量の金を持っていますから、大量の買い急ぎが出てきて大幅なインフレになりかねないのです。現金で持っていない場合でも預金を引き出せば良いので、同じことです。