「2時間の内乱があるか」…野党の謀略訴え延命視野、尹氏の戦略
韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が12日に発表した国民向けの談話で、「非常戒厳」の正当性を繰り返し訴えた。国会で弾劾訴追される可能性が高まる中で、談話からは、その後の憲法裁判所の審理で棄却に持ち込むことを見据えた戦略が透ける。 【写真】尹錫悦大統領の談話を報じるテレビ 「国政を正常化するために大統領の法的権限で行使した非常戒厳は、高度な政治的判断だ」。尹氏は約30分に及ぶ談話で、非常戒厳が合法、合憲的な措置だったと何度も強調した。 国会で多数を占める野党が閣僚らの弾劾を乱発し、「国政をまひさせている」と主張。野党がスパイなどを取り締まる国家保安法を廃止しようとし、麻薬や暴力団の対策予算も削減したとして、「このような人々こそ、反国家勢力じゃないか」と批判した。 国会への軍投入は秩序を守るためであり、「国会を解散させたり、機能をまひさせたりしようとするものではないことは明白だ」と強調。「300人未満の武装していない兵力では国会を掌握できない」「2時間(という短時間)の内乱というものがあるのか」と訴え、内乱罪は野党による偽りの扇動だと訴えた。 ◆ ◆ 与党「国民の力」の韓東勲(ハンドンフン)代表は談話の発表後、党議員総会で「今の状況を反省せず、合理化し、事実上内乱を自白する趣旨の内容だった」と批判。弾劾案への賛成を呼びかけた。 韓氏は記者会見でも、来年4~5月に大統領選を実施するための「秩序ある退陣」案を示したが、尹氏にその意思がないことを確認したと厳しい表情で語り、「任期などを党に一任するとの約束を破った」と非難。ある与党議員はラジオ番組で「流動的だが(与党内で弾劾に賛成する議員は)10人前後」と明かした。 弾劾訴追となれば、憲法裁が180日以内に妥当性を審理する。民主化以降、弾劾訴追された2人の大統領のうち、朴槿恵(パククネ)氏は訴追から3カ月後に罷免、盧武鉉(ノムヒョン)氏は2カ月後に棄却されて職務復帰している。 「弾劾しても捜査しても堂々と立ち向かう」と語った尹氏。野党との闘いをアピールして保守層の結束を図りながら、内乱罪は野党の謀略だとの空気を醸成したい狙いがある。韓国メディアによると、憲法裁は国民の声などを総合的に検討して判断するとされる。尹氏は世論を味方に付け棄却を勝ち取りたい戦略だ。 ただ、大統領が職務停止された状態が数カ月間も続けば、国政の停滞は避けられない。世論調査会社のリアルメーターが12日に発表した調査では「即時辞任または弾劾で尹大統領の職務を停止させるべきだ」との回答が74・8%に達した。 尹氏の訴えが理解される可能性は低いとみられる。 (ソウル山口卓)