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【帯広刑務所】懲役囚―――弾かれ、捨てられてゆく豆のように《懲役合計21年2カ月》

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 元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました。実刑2年2カ月! 府帯広刑務所に入ったじんさんは、懲役での「豆の選別」を行った。弾かれる豆をじっと見ながら、世の中から弾かれる自分たちの姿を見た。  自業自得? 自分の手を汚さず、後ろめたい気持ちを抱かずに真っ当に生きられるようには人間社会はできていないのも、大人になるとやはりわかります。じっと手を見た石川啄木ではないけれど、じんさんもじっと「豆」を見る塀の中の生活はじまりました。 この記事の写真はこちら ■弾かれ、捨てられてゆく豆のように  この帯広刑務所には、千葉や横浜その他、いくつかの本州の拘置所から、受刑者たちが護送されて来ていたが、その新人訓練でボクは二人の男と一緒になった。  一人は、横浜拘置所から来ていた、「石川五右衛門の会」の若い衆だと、周囲もはばからず至極真面目な顔で名乗るおかしな奴。  もう一人は、横浜刑務所に服役中、諍いから同囚を殴り殺してしまったという、カミソリの刃のような鋭い目つきと陰影のある青白い顔の奴だった。この男は3年の刑を背負って横浜刑務所に服役中に事件を引き起こし、判決は4年。亡くなった相手も悲惨だが、亡くなる前から被害者はくも膜下出血の疑いがあったことが裁判で明らかにされたことから、刑務所側の温情で、この受刑者を全国でも一番務めやすい帯広刑務所へ移送させたのだった。  その男の両肩から手首にかけての墨のぼかしと、わずかな色だけで彫られた昇り竜と下り竜の刺青は、入浴すると濡れて妖しい光沢を放った。墨の濃淡だけで彫られた刺青というのは見ていて凄みがあり、いかにも刺青らしかった。  ボク自身、刺青は入れていないが、過去何人かの弟分たちに、新宿十二社で道場を開いていた某彫り師のところで入れてやったこともあり、その芸術的ともいえる刺青にはやはり魅了されてしまう。  人という生き物は、自分の身体にペイントをするのが本能的に好きなようだ。その最たるものが未開の地の先住民たちである。皆、身体に傷をつけたり、彫り物をしたり、また塗ったりして、自分を美しく主張し、自己の存在を証明しようとしている。  新入工場での仕事は、小豆、大豆、空豆、大納言その他、何種類もの豆の選別が主であった。北海道の大地は豆の栽培に適していて、生産量が多い。豆に関しては豊饒な大地であり、我々受刑者たちの仕事としても、どうにか回してもらえる余地があったのだ。  ときには、ボクたち受刑者が食べる小豆の選別もやった。そういうときの小豆は一度選別されて弾かれ、不良品扱いとなったでき損ないの悪い豆ばかりだった。しかし、その中から再度でき損ないの小豆を、まるでボクたち犯罪者が、裁判というプロセスを経て社会から間引きされ、刑務所へ隔離されるかのごとく、間引きするのである。だから、ボクたち受刑者には、所詮プリプリしたふくよかな良い豆など口に入るはずもないのだ。  そういう弾かれた豆は、どこかボクたちと境遇が似ていて、そういう豆を食べるボクたちにはお似合いだった。不良とみなされて、弾かれ捨てられていく哀れで可哀相な一握りの豆たちが、ボクは堪らなく愛おしかった。  この、豆の選別作業で、手先の器用なボクは人の何倍もやった。あまりにもボクの選別作業の手が早いので、いい加減にやっているのでは? と疑った担当が、ときどきボクの仕上げた小豆の箱の中に手を入れて検品した。しかし、担当が何度手で小豆を掬って検品しても、ボクの箱からは、ただの一粒も不良となる豆は検出されなかった。  他の者たちは一日が無事に終わればいいという感覚でやっているから、ボクだけが頑張っているかのように見えるというわけではない。逆に新入工場では、考査、訓練で少しでも担当に良い印象を与えて自分の希望する工場へ配役されるようにと、どの受刑者たちも必死の思いで頑張っているのだ。それでも、ボクの仕事のスピードには、誰一人として追いつける者はいなかった。  途中、配役審査会を経て、四週間の考査、訓練が終わり、正式に工場へ配役になるとき、ボクは担当から賞与金の三割増しの告知をただ一人、同囚たちの前で受けた。新入訓練で割り増しをつけられるのは前代未聞のことだった。ボクも初めての経験であり、他の刑務所でも聞いたことがなかった。 (『ヤクザとキリスト~塀の中はワンダーランド~つづく)

文・イラスト/さかはら じん

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