インフレが来る? 通貨からの逃避続く世界経済
コロナ禍の拡大は続いているが、株式市場は好調を維持している。この背景には何があるのか。「貨幣からの逃避を垣間見た、それが今年のマーケットだった」。そう話すのは、フィデリティ投信のマクロストラテジスト重見吉徳氏だ。 【チャート】インフレ率の推移 貨幣からの逃避とはどういうことか。コロナ禍において、世界各国の政府は対策としての補助金や給付金を大量に支給した。重見氏が「パンデミック以上に驚いたのはGo Toキャンペーンだ」というように、政府が国民の生活費の一部まで持ち始めた。 しかし、バラまかれたマネーの出どころは国債などの借金だ。その結果、「中央銀行が自由にいくらでも貨幣を印刷できる。不換紙幣からの逃避が起きた」(重見氏)わけだ。 米国の通貨であるドルは売られ、下落した。一方で、通貨からの逃避先として選ばれたのは金融資産だ。米国のインフレ連動債が買われ、金(ゴールド)が買われた。そして世界中で株価が上昇したわけだ。「マネーから金融資産に積極的に変えようという動きは、それ自体がインフレだ」。重見氏は、そのように話す。
インフレはいつ来てもおかしくない
インフレという言葉は、日本ではすでに馴染みが薄くなっている。長らく続いたデフレ脱却もままならない中、人々がインフレを経験したのは40年以上前だ。そのため、「可能性を低く見積もってしまう。しかし、いつインフレが来てもおかしくない」と重見氏は警鐘を鳴らす。 同社最高投資責任者(CIO)の丸山隆志氏も、「インフレの話は日本では取り上げられないことが多い。日本では絶対起きないだろうというイメージがある。しかしグローバルの会議では、インフレの話はよく出てくる」と現在の状況について話す。 通常、インフレが懸念されるような状況では中央銀行は金利を引き上げて、経済の引き締めに入る。すでに銅の価格、農産物の価格も上がってきており、金利が上がってもおかしくない。しかしワクチン開発の希望が出てきたとはいえ、収束の見えない中では、利上げはなかなか難しい。 「FRB(米中銀)は、実質金利をマイナスに長くとどめておきたいと考えている。長期金利が上がってしまうと、実質金利がゼロになってしまう。ハイテク株が下落するような局面では、さらなる引き下げに動くだろう」(重見氏) インフレが懸念されるのはコロナだけの影響ではない。平和と繁栄が続き経済成長が進む中、人々の間では格差が拡大した。そんな中、政府の債務は返済されることなく、ゆっくりと積み上がってきた。日本の債務残高はGDP比で230%以上に達しており主要先進国の中で最悪だ。しかし、米国でも「今の債務水準は第二次世界大戦並に拡大している」と、重見氏は世界各国が似た状況になってきていることを指摘する。 理想的には、富裕層に税金を課して歳入を増やし、社会福祉などを削減して歳出を減らすのが債務削減の方法になる。しかし、富裕層は増税を嫌がり、歳出を削減するとさらに格差が拡大してしまう。「取るべきところからは取れない、お金を出さざるを得ない。結果として貨幣発行に頼ることが続く」(重見氏)