「予約ゼロから満席に」コロナ禍でも寿司屋経営をV字回復させた73歳大将の手法
コロナ禍で予約ゼロが続いていたが、SNSを活用することで経営をV字回復させた寿司店がある。成功の秘訣はなんだったのか。月給の6割を寿司に費やし、この3年間に600万円分は食べた28歳会社員の「寿司リーマン」が、東京・下北沢にある「鮨 ほり川」の大将・堀川文雄さんに取材した――。 【画像】「鮨 ほり川」の大将、堀川文雄さん。弟子は雇わず、ネタの仕入れや仕込みを1人で行うパワフルな寿司職人だ。 ■コロナ危機を乗り越えた1軒の老舗寿司屋 いつもお世話になっております。わたくし、「寿司リーマン」と申します。月給の6割を投資し、平均週4回全国の一流寿司屋を食べ歩いている28歳のサラリーマンです。累計10000カンの一流寿司を食べてきました。 私にとって一流の寿司屋とは、寿司を食べる場所ではなく、自己成長につながる場所、いわば「ビジネススクール」です。これこそが普通のサラリーマンである私が、時間とお金を投資し続けている理由です。 さまざまな角度から、「一流の寿司屋=ビジネススクール」という観点で、読者の皆さまにその魅力をお伝えできればと思っています。 今回は、「コロナで大打撃を受けるも、見事にその困難を乗り越えた1軒の老舗寿司屋」を取材しました。 飲食店に限らず、コロナ禍で不安な気持ちが募りがちな世の中。老舗寿司屋を切り盛りする73歳の大将に、時代の変化を受け入れ前進していくためのヒントを伺いました。
■コロナでどん底を味わった老舗寿司屋の逆転劇 「寿司屋として独立して45年。バブルやリーマンショックなど、時代の移り変わりとともにいい時も悪い時もあった。そんな人生の中で、2020年4月の新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の時が、最も経営的に苦しかった……」 そう語るのが、今回の主人公、寿司職人の堀川文雄さんです。 1975年創業、東京都世田谷区の下北沢駅から徒歩15分ほどの住宅街に立地する「鮨 ほり川」。地元客を中心に今では毎日席が埋まるほどの人気店です。大将の堀川さんは73歳。20~30代の大将が増えてきている寿司業界において、堀川さんは、職人歴53年の大ベテランです。 「昨年の緊急事態宣言の何がつらかったかって、2カ月近く営業することができないってこと。でもそんな時だからこそ、次はどうしよう、と打開策を自然に考えていましたよ」 女性アルバイトの方たちとさまざまなアイデアを出し合い、悩み抜いた結果誕生したのが、「ほり川スペシャル」というおまかせコースでした。 「若い人に本当にうまい寿司を知ってもらいたくてね。つまみの刺し身は毎日市場で仕入れた10種類程度のネタから好きなものを3つ選んでもらったり、トロやウニやエビなど、みんなが好きな王道のネタを盛り込んだ、いいとこどりの構成。コロナで暇になって深夜にランニングをしていた時にこの構成をひらめいたんだ」 いいアイデアを思いついただけでは、コロナ禍においてお客さんを取り戻すことはできません。73歳の堀川さんは、驚くべき行動にでます。アルバイトの女性に指導を仰ぎ、SNSの「note」で1本の記事をアップしたのです。 ■SNSで客足は戻るどころか連日満席に 「試しにやってみよう」という気持ちで昨年4月4日に公開した記事「【73歳】現役で寿司屋をやっています【下北沢】」が大きな話題に。続いて開設したツイッターで、コロナの影響で予約が0件という旨を発信すると、当日に2人、翌日に7人のお客さんが来店し、客足は戻るどころか連日満席になるほどの話題店へとなっていきました。 実際に私寿司リーマンも店に伺い、8000円の「ほり川スペシャル」をいただきました。つまみはもずくサラダから始まり、自分で選べる刺し身の盛り合わせにエンガワのしゃぶしゃぶ。握りはいきなり大トロやウニなどの強力なネタをこれでもかと楽しめる。そして極めつきは、柔らかめでほんのり甘めのシャリと、季節の高級フルーツを組み合わせた、完全オリジナルの「フルーツ寿司」で締めくくるという、斬新でクリエイティブな衝撃的なコースでした。 この73歳の職人の頭の中をのぞきたくなり、他のお客さんが帰った後、堀川さんから話を聞かせていただきました。