強いだけでは人は集まらない――。「スポーツを皆が楽しめる社会」のカギとは?【松田丈志の手ぶらでは帰さない!~日本スポーツ<健康経営>論~ 第8回】
【Clubhouse24】というホスピタリティ施設もそのひとつです。会場となった「パレ・ド・トーキョー」は1937年のパリ万博時に建てられたもので、現在は美術館として使われています。 この施設が有料のホスピタリティ施設として大会期間中は運営されていました。さまざまな食べ物や飲み物が提供され、中庭に設置された巨大なビジョンで競技が生中継されています。マスコットの【フリージュ】と写真を撮れる場所や、オフィシャルグッズストアもあり、競技会場に入れなくても一日中五輪を楽しめる場所になっていて、こちらも多くの人で賑っていました。 勝ち負けに一喜一憂することも五輪の醍醐味ではありますが、それだけでなく、スポーツイベントの雰囲気それ自体を楽しむためのさまざまな仕掛けを充実させ、スポーツホスピタリティを高めていくことが重要だと改めて感じましたし、私自身も五輪の勝ち負け以外の楽しみ方を体験することができました。 アスリートの一番の価値は「強いこと」――つまり結果を出せることです。ときに批判される勝利至上主義ですが、強いに越したことはありません。強くなり、結果を出すことで社会における一時的な認知度や伝達力も上がります。アスリートも各スポーツ団体も、強くなることを最優先することは正しい。パリ五輪において日本選手団は、海外開催の五輪では過去最多となる金メダル及びメダルを獲得しました。五輪のメダル数だけを見れば日本のスポーツ界は強くなり続けています。しかし、私は五輪スポーツが今後、強くなることだけを追いかけていても、今以上に各競技のファンを獲得することは難しいと考えています。 強いだけでは人々を惹きつけ続けることはできません。そこにホスピタリティがなければファンはついてこないのです。アスリートが長年の努力によって積み上げた強さの価値を積極的かつ継続的な情報発信によって知ってもらうことや、大会やイベントの告知、チケットの売り方の工夫など、試合会場にファンを集め、楽しんでもらうため施策が重要なのです。 五輪は4年に一度のビッグイベントですが、4年に一度しかファンにアプローチできないのだとしたら、いつまで経っても五輪でしか注目してもらえない競技のままです。だからこそ、各スポーツがそれぞれホスピタリティを高め、ファンとの接点を作り続け、日常的にそのスポーツを通して楽しむ人の数と時間の量を増やしていけるかどうかが大切だと私は考えています。 ロス五輪までの4年間はすでにスタートしました。この間の時間をいかにつないでいくか、その勝負も始まっています。 文/松田丈志 写真提供/株式会社Cloud9