オープンイノベーション、大企業は成功への旅路をいつまで続けるのか
日本の大企業によるオープンイノベーションの成果がなかなか上がらない。コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の立ち上げや、協業相手を探すための拠点を米シリコンバレーに設置。また経営者らがシリコンバレーを訪問し、状況の視察もしている。だが、既存ビジネスを変革させ、業界を破壊させるビジネスモデルや革新的な製品、サービスは生まれない。どれも小粒なものばかりで、大きく成長し、企業価値を向上させた例はほとんど聞かれない。そうした中、オープンイノベーションを叫ぶ声が再び高まっている。なぜか。 1つは、岸田政権時代の2022年11月、政府がスタートアップ育成5カ年計画を策定し、2027年度に2022年度の10倍以上の10兆円規模を投資し、100社のユニコーン、10万社のスタートアップを創出するとしたこと。そこにオープンイノベーションの可能性を見いだそうとし、自治体から民間企業まで起業家や投資家、企業を結びつける関連セミナーを開催。スタートアップの成長を支援する海外アクセラレターらもチャンスと捉え、日本進出を図っている。 Plug and Play Japan(P&P)で代表取締役社長を務めるPhillip Vincent(フィリップ・ヴィンセント)氏は、10月29日に同社が主催したJapan Summitで、「日本でも、スタートアップのエコシステムが重要になってきた」と語り、オープンイノベーションの重要性を説く。確かに、中期経営計画にスタートアップとの協業などオープンイノベーションを盛り込む大企業は少なくない。ここ数年間に成功事例も出てきた。しかし、想像以上の成果が生まれないので、「うまくいったもの、いかなかったものを、それぞれ検証し、フィードバックを得ている」ところだと同氏は言う。 そもそもイノベーションに本気で取り組んでいる大企業があるのだろうか。ある大手製造業の経営者は「アイデアの提案を待っている」と、自社だけの取り組みに限界を感じ、スタートアップらにその製造業の製品や技術を生かした新しいビジネスや製品の創出を期待する。しかしVincent氏は、「イノベーションはニーズから生まれるもので、無理やり作るものではない」と指摘する。 他力本願の企業にイノベーションしなければという危機感は無さそうに思える。特に「事業が比較的うまくいっている」と思っている経営者は、リスクを冒してまでイノベーションに取り組まないだろう。失敗を許されないプレッシャーもあり、今の事業をキープするのを最優先にする。つまり、キープ以上を求めないということ。だというのに、オープンイノベーションの取り組みを公表するのは、世の中に「やっている」姿勢をアピールし、IRの効果を期待してのこととみられる。中には、シリコンバレーに拠点を設けて、立派なオープンセレモニーを開催したことに満足する経営者もいるかもしれない。そうであるならば、今の製品やサービスの延長線上の改善・改良にとどまる小粒なものしか生まれないのは当然のことだろう。 スタートアップが育っていないこともある。大きく成長する前に新規上場(IPO)してしまうスタートアップが圧倒的に多い。一方、大企業による買収は極めて少ない。「早く上場しろ」というプレッシャーもあるのだろう。Vincent氏は「M&A(合併・買収)は事業拡大を一気にスケールアップする施策だ。スタートアップにとっても、成功の1つの選択肢になる」と説明する。