「心のサポート」を受けられない日本の子ども 小児科医が支援の体制を
◇「21歳まで毎年1回30分」―アメリカの手厚い制度
アメリカでは、この点で手厚いサポートをしています。1990年からhealth supervision(個別健康相談)を受ける機会が乳児期に7回、12~30カ月に5回あり、3歳以降は21歳になるまで年に1回30分、個別健診を受けます。そのうち10分は日本でやっているような体のことや予防接種をして、後の20分はサイコ・ソーシャルな問題について、小さい時は保護者と一緒に、大きくなったら保護者とは別に相談を受けます。10歳を過ぎると、小さい時から自分のことを知っていて信頼できる大人になら、親に言えないようなことも相談できるかもしれません。個々の子どもの状態に応じたさまざまな問題に対して、医学的知識があるしっかりした大人が成長とともに伴走してくれる――。それがこの健診の目的なのです。 21歳までこの健診を受けている人は70%以上とのことで、非常に進んだやり方だと思っています。
◇10歳以降に問題が増大
一方日本では、先ほど述べたようにバイオロジカルな面はともかく、サイコ・ソーシャルな面に配慮する力も余裕も不十分です。 思春期の子どものこころと体には劇的な変化が生じます。私たちが行った調査では10歳以降にこころの問題と薬物依存の問題が増大することは明らかです。 ところが、これまでわが国の小児科医の守備範囲は15歳までで、それ以上の年齢の思春期の子どもへの保健や診療を担ってきませんでした。そのため、この年齢層の人への対応が不十分となっています。 医学教育の面でもこの分野のカバーは遅れています。思春期の子どもの医療には妊娠、性、非行、うつのようなメンタルヘルスなども含まれますが、乳幼児中心の医療を担ってきたわが国の多くの小児科医の得意とする分野ではありません。しかし、小児科の守備範囲を超えた若年層の保健・医療に、これまで以上に小児保健・医療の関係者の貢献が求められているのです。 成育医療研究センターこころの診療部では、こころの問題をもつ子どもの診療、診療スタッフの育成に務めています。また、学習障害児の中の読み書き障害を改善するためのツールを作成し、公表しています。 さらに、アメリカの個別健康相談の教科書を成育医療センターのメンバーが翻訳し、「乳児、小児、青年のための個別健康相談ポケットガイド<http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20180516_1.pdf>」として日本医師会のウェブサイトで公開しています。また、子どもの健診を改善するための、厚生労働省の研究班にも協力しています。