勤務先から従業員へ「給与振り込み口座」の金融機関“指定”は法的にグレー!? デジタル払い解禁で確認すべき「賃金支払いの原則」とは
会社からの「口座指定」なぜ常態化
しかし実際には労働者側からではなく、勤務先の会社から、指定の銀行口座を作るよう要求されたという人も多いのではないだろうか。 SNS上でも「転職先から銀行口座を指定された」「新しく銀行口座を作ることになった」といった声が見られる。 このような会社側による口座指定が慣例化している理由はどのようなものだろうか。 勝又弁護士は「社員ごとにばらばらにするのではなく、一つの金融機関を指定することで、会社側にとっては、振り込み手数料による経済的な負担や、事務的な負担が生じず、大きなメリットになる」と説明する。 「旧労働省(現在の厚生労働省)の通達では、給与口座の振込先について『労働者が本人名義の預貯金口座を指定すれば、特段の事情のない限り、給料を振り込みによって支払うことの同意と振込先の指定がなされたものとする』と定めています。 そこで多くの会社では、入社する社員に対し、あたかも当然のことかのように『特定の金融機関の口座を給与振込先とする申請書等』を提出してもらうようにし、それによって『労働者の同意と指定がなされている』という形を取っているのが実情ではないでしょうか」(勝又弁護士) では、振込先の金融機関を指定する企業に対し、何らかのペナルティーが科せられることはないのだろうか。 「前述したとおり、労働者の要望や同意なく、会社側が一方的に金融機関を指定して振り込むのは、賃金支払いの原則に反します。 そして、労働基準法第120条第1項では、上記規定に違反した場合について、30万円以下の罰金に処すと定めていますから、もし会社側が振込先口座の変更や、現金での支払いを拒否した場合には、労働基準監督署による立ち入り調査や行政指導が行われる可能性があります」(同前)
もともと所持している口座に給与の振り込み「もちろん可能」
それでも、労働者の側からすると「会社側に面倒なヤツだと目をつけられるのは嫌だ」などと考えてしまい、希望の口座への振り込みを言いだせない人もいるのではないだろうか。 そこで、勝又弁護士は会社側との交渉について、以下のようにアドバイスする。 「本来、振込先口座は労働者が指定するものですから、勤務先から給与口座の指定を受けた場合、会社と交渉し、自分の所持している口座に振り込むようにしてもらうことは、もちろん可能です。 会社指定の金融機関だと不都合である理由(自宅周辺に当該金融機関の支店がない等)や、別の金融機関の指定を希望する理由(住宅ローンの借入先金融機関に合わせる必要がある等)をきちんと説明し、会社側の経済的・事務的負担への理解も示しながら、会社としっかり話し合ってみると良いのではないでしょうか」
弁護士JP編集部