星空観測の“穴場”を探せ、衛星データで「密」回避
宇宙ビジネスのベンチャー企業が、衛星データを用いて「密」を避けた観光を可能にする個人向けアプリの開発を進めている。世界に遅れをとる日本の宇宙産業において、一般消費者向けビジネスは市場拡大に寄与するだろうか。 【図】「星みくじ」の仕組み ■ 行政や企業向けの宇宙ビジネスはあるが・・・ 世界の宇宙ビジネス市場規模は2016年の時点で36.9兆円(モルガン・スタンレー調べ)。一方、日本の市場はこの3%の1.2兆円とされ、小ささや遅れが指摘される。2030年代を過ぎると世界市場は約3倍になると予測されるが、日本は目標ベースで「30年代早期に倍増」(宇宙基本計画)と勢いがない*1*2 。 特に市場がまだ成立していないに等しいのが、一般消費者向けビジネス(BtoC)だ。宇宙ビジネスは長年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの国立機関向けや、地図サービス業などの民間企業向けにほぼ限られてきた。 そうした中、一般消費者向けビジネスの胎動が生じている。 ■ 個人向け、星空観測の「穴場」教えるアプリ 情報通信技術を用いた宇宙体験コンテンツの制作などを事業とするアミュラポ(東京都新宿区)は、衛星データから星空観測の「穴場」を見つけ、個人利用者に周辺の穴場スポットをアプリで教えるサービス「星みくじ」を開発している。 穴場を教えるまでの仕組みは次のようなもの。星空観測の妨げとなる夜間光や雲の多い場所を衛星データで特定し、それ以外を観測可能場所とする。その中から、利用者の現在位置情報と、ランダム機能を利用し、その利用者に適した観測場所を穴場としてピンポイントでおすすめする。 たとえば、「車で1時間圏内」と選択したら、あとは観測場所をおみくじのように「星みくじ」に選んでもらう。「密」回避のため、おすすめする穴場が重ならないようにするアルゴリズムの導入も検討している。
■ 宇宙IoTのビジネスコンテストを契機に 「星みくじ」の開発は、宇宙規模でIoT(モノのインターネット)活用を想定したビジネスコンテスト「Tokyo Moonshot Challenge」(シスコシステムズと慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科共催)への応募をきっかけとしたもの。プレゼンテーション審査などを経て2020年10月に優秀賞が決まった。 メイン提案者である同社メンバーの小林寧々さんは、「マイクロツーリズムへの関心が高まる中、密を避けつつ近場でアウトドア観光できるためのツールを実現できたらと取り組んできた。個人消費者向けのサービスである点に新規性を打ち出した」と話す。 今後、シスコ東京本社(東京都港区)内ショーケースでの展示を経て、2021年4月以降にウェブ版のアプリを公開する予定だ。 収益性の確保が課題となりそうだが、代表の田中克明さんは、「将来的には、おすすめ穴場の周辺にある飲食店やホテルなども案内して売上マージンを得たり、このコンテンツを駆使したツアーパッケージを開発するなどして、収益化をめざしたい」と話す。 ■ NTT東日本が地域活性化へ協業を探る アミュラポは「NTT東日本賞」も受賞した。電話やインターネットに次ぐ第三の柱としてデジタル事業に注力するNTT東日本は、アミュラポとの協業の将来性などを期待し、賞の授与を決めた。同社の下條裕之さんは、「エンタメ要素をビジネスに採り入れる発想は私どもには少ない。その補完性を重視した」と話す。 同社の顧客の大多数は各地の中小企業や個人だ。地域活性化という方向性も、「星みくじ」に見られるアミュラポのローカリティ重視の姿勢と一致した。「センサーなどの虫の目データと人工衛星などの鳥の目データの組み合わせで、豊かな地域社会を実現したい。さまざまな協業の仕方を探っていく」(下條氏)