韓国戒厳令デモで「オタク」が主役に 手にしているのは「K-POP」「日本アニメ」のペンライト
“消えない灯り”として
「朴大統領弾劾当時、与党議員が『ろうそくは風が吹けば消える』と発言して、市民から強い反発を受けました。今回はろうそくとは違う“消えない灯り”として、若者たちが身近にある応援棒を持ち込んだというわけです。『応援棒』の検索数は2倍に急増しています。K-POPのグローバル化で海外のK-POPファンも、韓国の若者デモに関心を持つようになるなど、海を越えてブームが広がっています」(前出の社会部記者) 集会で目立つのは応援棒だけではない。無数のはためく旗は市民団体や労組のものだけとは限らない。文字を見ると「全国精神健康医学科 皆勤患者協会」「ワンちゃん足の匂い研究会」、「歩く時に携帯電話を見ない運動本部」、「北太平洋海底基地編み物の会」、「OTT(動画配信サービス)何を見るか選べない人々連合会」、「全国血糖スパイク防止協会」、「全国ドラゴン保存協会」などユニークな発想で自己をアピールしている。 一昔前の過激な行動はすっかり影を潜め、集会参加者の笑いを誘う“オタク”たちが主人公に躍り出た。趣味嗜好が細分化されたはずの若者たちが、SNSの積極的活用で街頭へと自発的に繰り出し、ストリートミュージシャンが軽快なリズムで「弾劾が答えだ」とにこやかに歌う。 それにしてもなぜ韓国の若者はここまで反発するのか。韓国のデモ文化の変容について韓国の社会文化に詳しい大学教員がこう話す。 「韓国では中高年男性への嫌悪感を表す『コンデ』という汚い言葉がはやっています。日本語だと『くそジジイ』といった意味で若者世代が既得権益をたてに偉そうに振る舞う年配者を馬鹿にするときによく使います。12日に自己を正当する談話を発表した尹大統領はまさに『コンデ』の権化のように見えたため、若者たちのさらなる反発を招いています」 こうした若者たちの行動を識者も注目しているようだ。 「哲学者の鶴見俊輔は戦後、専門家による純粋芸術ではなく非専門家によって大衆に受け入れられる芸術を限界芸術と呼びました。落書きやお祭り、デモなど私たちの生活の周辺に広がっている無数の文化実践こそ限界芸術と言えます。国内屈指の有名社会学教授が『韓国のデモはまさに限界芸術だ』と高く評価していましたね。熾烈な受験戦争、広がる貧富の差、就職難や結婚難など希望のない韓国社会を変えようとして今、若者たちは“応援棒”を手に街に繰り出しているのです」(前出の大学教授) 世界を驚かせた韓国の若者たちの街頭パフォーマンス。尹大統領の弾劾訴追案は再び国会に発議され14日に採決される予定。オタクが歴史を変えるか――。 デイリー新潮編集部
新潮社