大震災後の復興には「地球に生きるための素養」が必要
その後、TEAMSには社会科学者で東京海洋大学博士研究員の大木優利さんが参画し、著者と一緒に仕事をすることになった。大木さんは東北の被災地に泊まり込み、いろいろな背景をもつ人々から海の豊かさ、震災が人々の生活や漁業のありかたに与えた影響、そして海とともに生きていくことなどについて話を聞き、地域の社会構造の可視化とそこに内在する問題点のあぶり出しを進めた。
「より好ましい状態」とは何か
東北の被災地が抱える問題点を突き詰めていくと、それは東北地方にかぎったことではなく、日本の沿岸地域が共通して抱える問題であることがわかってきた。たとえば、(震災をきっかけとした)人口流出による過疎化、高齢化、年々衰退しつつある地域産業、雇用格差、後継者不足、技術革新の波に乗れる人と乗れない人、沿岸の自然が本来持っている収容力を脅かすほど過剰な経済活動などである。
社会のために科学は何ができるのか? 科学者は社会にどのように貢献していくべきなのか? 答えは、科学者がより社会に関わり、人々が「より好ましい状態」であることを感じ、そうなるように対話し、助言することである。では、「より好ましい状態」とは誰が決めるのだろうか? 決定するのは、地域に住む人々にほかならない。しかし、人々は、その地域の自然と人間関係とにどっぷりと漬かっており、そして長年にわたって地域に暮らす中でなんとなくわかってはいるものの、必ずしもはっきりとした答えをもっているわけではなかった。
そこで、地域に古くから根付いた知識(local knowledge)や知恵(土地ごとに受け継がれた言い伝えや習慣)をヒントに追究することで「より好ましい状態」の輪郭が見えてきた。驚くことに、それらは国連が2015年から15年間で達成するという持続可能な開発目標(SDGs)に含まれる要素(ゴール)と同じものが多かったのである。
持続可能な地域社会に向け
一つの例として、「地域の住民が海の豊かさを守る」ことを考えてみよう。日頃、海からの恵みを受けて暮らしている人々が、地域の海が1年当たりどれくらいの量(数)の生物を養うことのできるキャパシティーがあるか(環境収容力という)を理解し、それに基づくと、どれくらいの数量の生物を養殖すれば環境を疲弊させずにすむか、を計算で割り出すことができる。