ひろゆき、中野信子と脳を科学する② 頭がいい人はなぜ嫌われるのか【この件について】
ひろ でも、最近の社会の変化を見ると、知能の高さと経済的成功や子孫を残す確率が結びつき始めているようにも思うんですよ。例えば、国勢調査(2020年度)によると、日本人男性の生涯未婚率は男性が約28%、女性が約18%です。一方で、20代の年収600万~700万円未満の男女の既婚率は65%で、年収200万円未満の約6倍というデータがあります。現代では知能の高さと収入が密接に関連していますし、それが結婚や子育ての可能性に直結する時代が始まっているんじゃないでしょうか。 中野 私たちは、今まさにその変化の黎明期にいるのかもしれませんね。 ひろ 一方で、高身長な男性が選ばれやすく、生存や生殖に有利であるという考え方は、現代でも強く残っていますよね。昔のように肉体で戦うような時代ではなくなったのに。 中野 そうですね。まず、肉体を使う争いが完全になくなることはないからでしょうね。私たちが身体性を持っている限り、体格の優位性は残り続けると思います。さらに重要なのは、高身長に対する私たちの潜在的なバイアスです。 ひろ というのは? 中野 具体的には、私たちは無意識のうちに「社会経済的地位が高い」ことと「体が大きい」ことを混同しがちなんです。多くの人は、体の大きい人に対して無意識的な畏怖や恐れを感じています。こういう話があるんです。大学には、大学院生、助教、講師、准教授、教授という職位があるじゃないですか。で、面白いことに同じ人物の写真を見せても、その人の肩書によって見た人が予想する身長の平均値が変わるんですよ。つまり、同じ顔でも教授と聞けば背が高く、大学院生と聞けば背が低く見られる傾向があるんです。 ひろ マジすか。 中野 私自身の経験でも、このバイアスの影響を強く感じます。実は私の身長は158cmで、日本人女性の平均身長です。ところが初めて会う人の多くは「思ったよりずっと小さいんですね」と驚かれることが多いんですよ。 ひろ 中野さんの肩書や業績から、もっと背が高いはずだと思い込む人が多いんですね。 中野 多くの人が「社会経済的地位と身長は一致するはずだ」という根拠のない思い込みを持っていることの表れだと思います。 ひろ でも、その思い込みにも一定の根拠はあるんですか? 中野 これまでの人類史において、体格のいい人が社会的に成功する傾向があったのは事実です。実際の戦闘場面でも、体格のいい人が有利だったでしょう。そして、多くの国でやはり貴族の人たちの身長は高い傾向がありますよね。 ひろ 確かにイギリスのチャールズ国王やウィリアム皇太子も高身長ですよね。 中野 貴族階級と一般市民の間には、平均身長に明確な差があります。これは単なる偶然ではなく、長年にわたる社会的選択の結果かもしれません。 ひろ そう考えると「体が大きい=社会的地位が高そう」というバイアスは、なかなか変わりそうにないですね。 中野 意識的に対処できるレベルを超えた、深い心理的反応ですからね。このバイアスがなくなるには相当な時間がかかるでしょうね。ですから、当面は「知能が高い」よりも「体が大きい」ほうが社会的に有利な状況が続くと考えられます。 ひろ うはは。 *** ■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など ■中野信子(Nobuko NAKANO) 1975年生まれ。東京都出身。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学大学院博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに勤務後、帰国。主な著書に『人は、なぜ他人を許せないのか』(アスコム)など 構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾