大の里、順風満帆ではなかった力士人生 周囲が明かす舞台裏／誕生 ちょんまげ大関 ＜３＞
＜誕生 ちょんまげ大関 連載3＞ 幕内優勝は所要7場所、大関昇進は同9場所と、さまざまな最速記録を打ち立ててきた大の里（24＝二所ノ関）の力士人生は順風満帆そのもの…、ではなかった。大関昇進を決めた今だからこそ、周囲が舞台裏を明かし始めた。夏場所は12勝3敗で初優勝、秋場所は13勝2敗で2度目の優勝。間に挟まれた7月の名古屋場所は、9勝止まりと苦戦した。同場所も成績次第で大関昇進の可能性があったが「余計なことを考え過ぎた」。大関とりの過剰な意識を不調の理由に挙げたがそれだけではなかった。 ある関係者は名古屋場所を振り返り「ちょっと熱中症ぎみだった。氷のお風呂にも入っていた」と明かした。めまい、だるさなどを伴う、熱中症は当然、集中力が欠如する。初日から2連敗、4日目を終えて3敗と序盤に黒星を重ねた理由も、コンディション不良の可能性は十分。それでも言い訳せず、精神力が弱かったと自分を責めた。秋場所で毎日「1日1番に集中」と繰り返したのも、たとえ病気であっても乗り越えたいという意思表示だった。 実は夏場所も、2日目の高安戦で左足首を痛めていた。父の中村知幸さんが、休場するかたずねたほどだったが「大丈夫」と即答。以降、痛むそぶりは見せなかった。新入幕から琴ノ若（現琴桜）に連敗し、師匠の二所ノ関親方（元横綱稀勢の里）に対策を聞いたが「なぜ勝てないか分かっているけど教えない」と返された。そこで初めて出稽古し、琴桜と何度も胸を合わせて立ち合いの重要性を再確認。萎縮して、持ち味の立ち合いから圧力を、見失っていたと気付かされた。 スピード出世が注目される大の里だが、二所ノ関親方は「僕が言いたいことをすぐに理解する。その能力は他の力士の何十倍、何百倍」という。壁にぶつかっても修正能力の高さが持ち味。短期間に課題を克服するスピードこそが“ちょんまげ大関”誕生の最大の理由だった。【高田文太】（連載最終回）
