【平成から次代へ オカルトどう変わる】雑誌『ムー』生き残るノウハウ 三上丈晴編集長に聞く
コンプライアンスの時代 表現のさじ加減に独自のノウハウ
コンプライアンスも厳しくなり、読者も大人になって、気をつけなければいけないことも増えてきた。人権を侵害するような表現上の問題などはどんな出版物でも気をつけるのは当たり前だが、不思議な世界を扱う『ムー』はその辺りのさじ加減にも独自のノウハウがあるのだとか。 「幸い長年読者に支持されてきたのは、怪しいテーマを扱うにあたっての距離感を大事にしてきたからだと思うんです。UFOでも死後の世界でも、ある種の信念に基づいてガチガチに『100%これは本当なんだ』っていう形で作っちゃうと読者もドン引きしちゃう。やばい、いっちゃってるよ、って。だからって、はなっから存在しないんだ、こんなことあるわけないだろ、って小ばかにした気持ちで編集しちゃうと、それもやっぱり誌面に出る。読者はしらけちゃうんです。がっつり信じ込むわけでもなく、ぜんぜん信じていないわけでもなく、その距離感のなかでバランスをとる」 『ムー』に寄稿するのは、オカルトでも特定のジャンルに特化した専門の研究家やライターだ。具体的には、編集側からどのようなやりとりがなされるのだろうか。 「書き方でお願いしているのは、まず記事や特集のテーマとなる謎がありますと。それについて一般的に誰もが疑問に思うこと、たとえば『これは心霊写真だっていうけど、ただの白い煙が写っているだけじゃないのか?』といった批判をひとつひとつていねいに検証し、それでも最終的にはやっぱりわからないよね、ってところまで持って行く。段階をきちんと経ることですね」
ターゲットは初心者よりマニア 大人の読者を意識
編集者よりも、読者のレベルのほうが高いかもしれないという。いつの時代も、不思議なものへの関心を抱く人は一定数いると思われるものの、『ムー』がターゲットとするのはまったくの“初心者”ではないそうだ。 「こうしたジャンルのことを知らない人にも教えてあげようっていう初心者向けの作りになっちゃうと、ぼやけてくる。基本的にはマニア向けに、大人のマニアが読むのにたえる雑誌にレベルを上げてきたので、そのぶん興味のない方から見るとわからない言葉なんかが並んでいたりもするかもしれません。裾野は広げたいんですけど、簡単にすればいいというものではないんですよね」 どういう人たちが自分たちの読者なのか、そのイメージが明確になっていて、そこへ向けて訴求する雑誌を作っていく。 「読者は目が肥えているというか。読者自身が不思議な世界に関しての仮説なり見方なり、世界観をちゃんと持っているんです。そのうえで記事を読んだときに、『なるほどね、こういう見方もあったか』と感心することもあれば、『このへんは甘いな』と思うこともあるはずで。そういう読み方こそ、知的エンターテインメントだと思うわけです」