銀座『黒革の手帖』のリアル 第1話 「物語に近いことは、現実にもある」
そして再び転機が訪れる 自分の店を持つための戦いが始まる
そしてまた、転機が訪れる。 「あるときママが新興宗教に入って、そこの教祖さまが『あなたの店にこういう人がいるでしょう、その方にお店を譲りなさい』って言ったらしいんですよ。こういう人、って私のことらしいんです(笑)」 譲りなさい、と言っても、もちろんタダでもらえるわけではない。 「譲渡権利。権利を買わなきゃいけないわけですけど、当時のお金で5000万円。私、とてもじゃないけどそんなお金はない」 ドラマ『黒革の手帖』では、税金逃れのために作られた架空名義の口座がいくつも存在することを知った原口元子が、それらの黒い金を横領し、銀行に取引を持ちかける。その金を元手に銀座の一等地に自分の店「カルネ」を開店し、ママの座に君臨するが……。 「お店のビルのオーナーさんが台湾出身の女性で、いくつもビルを持っている方で、ママと3人で何度も食事をごちそうになりながら話をするうちに、融資先を紹介すると言うんです。ママがメインバンクにしているところで、お店を担保にお金を借りることができたんですよ。バブルがはじけてからはそんな話はまずないですけどもね」 しかしそれだけではまだ足りず、住んでいた地元の銀行にも掛け合ったという。保証人も後ろ盾もない中、店を持つための戦いが始まった。 「事業計画書というのを書かされて、持って行ったんです。応接室に5、6人の男性の行員が並んでいましてね……。いろんな質問を浴びせられたうえに、もう、ひっくり返るぐらい、びっくりする話をされたんですよ。いま思えば奇跡だなと思うけど、支店長さんが『佐藤さんの考え方、地に足がついてきちっとしているから2000万円融資しましょうと、その場で決めてくれたの。それで店を買えたんですけど、ビルのオーナーさんはしっかりしている方で、『丸一年は私に返済してくれ』って」 当時は景気が良かったので、銀行融資の利息は5~5.5%くらい。その利息に5%上乗せした分をオーナーに支払ってほしいという要求だった。 「10%ですよ、利息が。大きいですけど、承知しましたと。それでお店始めて1年3カ月経って、なにもおっしゃらないから、『1年経ちましたから、よろしかったら金融機関さんと直にさせていただけませんか』って。『あらごめんなさい、うっかりしていました』だって(笑)」 (取材・文・撮影:志和浩司) 第2話<嫉妬渦巻く世界 裏切り、そして……>へ続く